将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

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事情

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「美味い飯と美人、両方揃っていればなおいいと思いますがね。団長もご一緒にどうですか? ここ、空いてますよ」

 エリックはそう言うとおばさんからプレートを受け取り、ルーカスの前に置いた。

「どうぞ」と席を指し示す。

 2人の空気が剣呑なのはよく分かる。

 だが、プレートが移動したお陰で、ぷうんと、ソースの芳しい香が漂った。

 今はもう、腹ぺこだ。

 それにここは家とは違う。夜食も、寝しなのミルクもない。オリヴィエは己の欲求を優先した。

「あの、ルー……、いえ、団長」

 いきなり声を掛けたので、彼は驚いてオリヴィエを見る。

「私、とてもお腹がすいてしまったので、ご一緒に食事を頂いてもよろしいでしょうか?」

 オリヴィエはきりっ、と騎士団員らしい――と自分が思っている――表情を作って問いかけた。

 先ほどのルーカスの態度は解せないが、こだわっていても始まらない。

 オリヴィエはここに残ると決めたし、ここにいる間は、ルーカスはオリヴィエの上司だ。

 ルーカスはあからさまに舌打ちをした。

「飯を食っている場合か? 俺は帰れと言ったはずだ」

「でも、お腹はすきましたし、こうして用意もして頂いたので」

 オリヴィエが開き直ると、彼は何か言いたげに口を開いた。

 しかしすぐに諦めたように溜息をつくと、黙って席に着く。

 言葉遣いすら、王子様らしくなくなった。

 彼は変わってしまったのかもしれない。彼はこの騎士団をまとめ上げる団長なのだ。

 オリヴィエも変わった。

 筋肉隆々ではないが、腕っぷしは強くなった。

 腹から声を出すようになった。人前で空腹を訴えるようになった。

 オリヴィエがそうであるように、ルーカスにも理由があるのかもしれない。

 どちらにしろ、目の前で湯気を立てるスープとハンバーグを放ってはおけない。

 今日はほとんど何もしていないが、トレーニングをするようになってからは、食事に目がなくなった。

「では、頂きます。団長、お先に」

 オリヴィエは、ルーカスに断ってから食事を頂く。

 途端に腹の虫が再び騒ぎ出す。

(美味しい!)

 ハンバーグを一口含んだ途端、思わず顔がゆるむ。

 お肉が口の中でほぐれていく感覚。

 スープも野菜たっぷりで身体に染み渡るようだし、添えられたポテトもほくほくだ。

 オリヴィエは夢中で食事を平らげた。

(ああ、幸せ!)

 腹を満たしたところで、ようやく一息ついた。

「ごちそうさまでした」と丁寧に両手を合わせると、エリックが驚いた顔でこちらを見ていることに気づいた。

「何ですか?」

 首を傾げるオリヴィエに、彼は感心したように口を開く。

「お前、いい喰いっぷりだな。しかも、上品に平らげる。育ちがいいのか、よく分からんな」

(食いしん坊の自覚はあるけど、そんなに見られると恥ずかしいわ……)
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