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事情

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「はいはい、散った散った~」

 彼はパンパンと手を打つと、団員たちをオリヴィエの傍から追い払う。

「こいつら浮かれてんだよ」

 食堂を見渡せば、皆が皆浮き足立っていた。

 皆が皆食事そっちのけでお喋りに興じているのだから確かにこれは異常事態だ。

「ちょっとアンタ達! もう子供じゃないんだから、食事くらい静かにできないの!?」

 見かねた厨房の奥から、恰幅の良い女性が顔を出し、声を張り上げる。

 途端、団員達はぴたりとお喋りをやめた。

「は……い」

(いけない。私も立ちっぱなしで、無作法だったわ)

 オリヴィエは心の中でこっそりと呟く。

 しかし、食堂に漂う空気が一気に張り詰めたのは、おばさんの叱責によるものではなかった。

「だ、団長……」

 団員たちは、その迫力に震え上がった。

(団長!?)

 オリヴィエもギョッとしてそちらを見る。

 厨房から出てきたおばさんの後ろに隠れるような位置に、ルーカスが立っていた。

「お前たちの日ごろの働きには感謝している。だが……最低限のマナーというものを忘れてもらっては困るな」

 彼の凍てついた視線が、食堂全体を震え上がらせた。

「は、はい……団長」

 オリヴィエの傍からそそくさと散っていく団員たち。

 その中で、エリックだけが動かない。

「珍しいっすね。団長が食堂を利用するなんて」

 彼はルーカスと睨み合い、臆する様子もなく皮肉った。

「少し、気分が変わったのでな。……で、久しく来てみればこのザマだ」

(気分が変わって? 普段は食堂に来ないの?)

 オリヴィエが団員たちから注目を浴びていたのは事実だ。

 だが、オリヴィエのせいではない。食事の場を乱すことはあっても、彼女が意図して引き起こした現象ではない。

「食堂の雰囲気がどうとか、そんなくだらないことのために来たんすか?」

(エリックさん?)

 オリヴィエはハラハラと成り行きを見守る。

 何故か二人の間には剣呑な空気が流れていた。

「だとしたら大失敗では? 食事時のメンタルって、結構、集中力に影響するんすよ」

 エリックは明らかに皮肉を放っている。

「そうか? 安全な場所で美味い飯にありつく。この上ない幸福だ。それだけで充分、快楽物質が分泌されるはずだが?」

「褒めて貰えてうれしいよ! それにしても久しぶりだね。さあどうぞ、団長さんの分さ」

 ルーカスが言い返すと、厨房の奥からおばさんが大きなプレートに山盛りの料理を乗せて現れた。
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