上 下
19 / 140
再会

しおりを挟む
 するとそこでようやく、ルーカスが離れた。その顔はどこか不機嫌そうに見える。

「何てこと、するのよ!?」

 オリヴィエは、かあっと耳まで朱に染めた。

 ルーカスの豹変ぶりに驚きながらも、嫌悪感ではない何かを感じて全身が熱くなる。

 オリヴィエは気恥ずかしさに、思わず両手で身体を隠すようにして身を強張らせた。

「俺に散らされたくて、こんな男の園まで足を踏み入れたんだろう? 何が不服だ」

「そ、そんなこと、望んでません……っ」

 散らされる――つまり、処女を。

 言葉の意味を理解して、オリヴィエは頭から蒸気が出そうなほど真っ赤になった。

 確かに、妻になるとはそういう行為も含まれる。今のオリヴィエならわかる。

 知った上でルーカスとの結婚を望んでいた。

 しかし、今は違う。

 ただ、ルーカスの傍にいたくて、彼の目に留まりたくて聖騎士団を目指した。

「でなければ妾妃はどうだ? 今ならまだ、遅くない」

 ルーカスはオリヴィエの顎に指を添えて上向かせると、今度は額へ唇を寄せる。

(何? またキス……っ)

「結構です……! 私の望みは、聖騎士団の一員として、王国の安寧を守りたいだけ。聖女になれなかったからこそ、自分にできることがしたかったの」

 額に唇が触れたものの、今度はすぐに身をかわす。

 ただ、格好良くて優しい初恋の人と、命の灯が消えるまで肩を並べて居たかった。

 それだけの想いでここまで来たのに、処女を散らすだの妾妃だのと、失礼が過ぎる。

 優しさの欠片もない発言ばかりで、本当にこの人があのルーカスなのかと疑いたくなる。

「お前……」

「お前じゃなくて、オリヴィエよ。いきなりこんな、酷いことをするなんて、見損なったわ」

「酷い? どこが」

「婚約者でもないのに、あんな……キスをして。それに、む、胸を」

 オリヴィエは、その先を言い淀んだ。揉まれたなんて、恥ずかしくて口に出せない。

「あぁ」とルーカスは気にも留めずに答える。

「そんなもの、隠さずに膨らませているのが悪い。ここをどこだと思ってる? 女に飢えた男どもと寝食を共にする騎士団だ。末生りうらなりの聖職者どもと一緒にするな」

「そ、そんな……。聖騎士団に所属する騎士は、皆紳士たるべきだと」

「建前はな。王家直轄の騎士団だ。外聞が悪いのは困るからな。貴族出身の騎士も多いから、体面だけは保てている。しかし、中身は金で雇われたそこらの傭兵と変わらない」

 団員規範にはしっかりと、騎士のあるべき姿が記されている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...