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再会

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 するとそこでようやく、ルーカスが離れた。その顔はどこか不機嫌そうに見える。

「何てこと、するのよ!?」

 オリヴィエは、かあっと耳まで朱に染めた。

 ルーカスの豹変ぶりに驚きながらも、嫌悪感ではない何かを感じて全身が熱くなる。

 オリヴィエは気恥ずかしさに、思わず両手で身体を隠すようにして身を強張らせた。

「俺に散らされたくて、こんな男の園まで足を踏み入れたんだろう? 何が不服だ」

「そ、そんなこと、望んでません……っ」

 散らされる――つまり、処女を。

 言葉の意味を理解して、オリヴィエは頭から蒸気が出そうなほど真っ赤になった。

 確かに、妻になるとはそういう行為も含まれる。今のオリヴィエならわかる。

 知った上でルーカスとの結婚を望んでいた。

 しかし、今は違う。

 ただ、ルーカスの傍にいたくて、彼の目に留まりたくて聖騎士団を目指した。

「でなければ妾妃はどうだ? 今ならまだ、遅くない」

 ルーカスはオリヴィエの顎に指を添えて上向かせると、今度は額へ唇を寄せる。

(何? またキス……っ)

「結構です……! 私の望みは、聖騎士団の一員として、王国の安寧を守りたいだけ。聖女になれなかったからこそ、自分にできることがしたかったの」

 額に唇が触れたものの、今度はすぐに身をかわす。

 ただ、格好良くて優しい初恋の人と、命の灯が消えるまで肩を並べて居たかった。

 それだけの想いでここまで来たのに、処女を散らすだの妾妃だのと、失礼が過ぎる。

 優しさの欠片もない発言ばかりで、本当にこの人があのルーカスなのかと疑いたくなる。

「お前……」

「お前じゃなくて、オリヴィエよ。いきなりこんな、酷いことをするなんて、見損なったわ」

「酷い? どこが」

「婚約者でもないのに、あんな……キスをして。それに、む、胸を」

 オリヴィエは、その先を言い淀んだ。揉まれたなんて、恥ずかしくて口に出せない。

「あぁ」とルーカスは気にも留めずに答える。

「そんなもの、隠さずに膨らませているのが悪い。ここをどこだと思ってる? 女に飢えた男どもと寝食を共にする騎士団だ。末生りうらなりの聖職者どもと一緒にするな」

「そ、そんな……。聖騎士団に所属する騎士は、皆紳士たるべきだと」

「建前はな。王家直轄の騎士団だ。外聞が悪いのは困るからな。貴族出身の騎士も多いから、体面だけは保てている。しかし、中身は金で雇われたそこらの傭兵と変わらない」

 団員規範にはしっかりと、騎士のあるべき姿が記されている。
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