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再会

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 ルーカスの左手がすっと伸ばされると、彼女の髪を一房掬い取った。そしてそこへ口づけを落とす。

(!?)

「お前は」と言いかけて、そこでルーカスは止まった。

 彼はオリヴィエの瞳を覗き込むようにして、まじまじと観察する。

「お前は……あの、オリヴィエか」

 言葉と同時に、ルーカスの指から銀髪が滑り落ちる。

 まるで花に止まった蝶のように、彼の指先が微かにオリヴィエの髪を弄ぶ。

「あ、あぁ……」

 オリヴィエは震える声を漏らした。

(覚えていてくれたのね!)

 10年の時を経て、やっと自分を認識してくれたことに、オリヴィエは歓喜した。

 脳裏には、10年前に交わした約束が蘇る。

「そうよ! 私がオリヴィエよ。泉のほとりで貴方と、結婚の約束をした……」

 つい興奮して声が上擦った。期待を込めた目で、ルーカスの瞳を見つめる。

「聖女に選定に漏れて、聖騎士団を志したのか?」

「そうよ、私……」

(せめて、貴方の傍にいたくって)

 歓喜したオリヴィエは、今こそ想いの丈を伝えたくて言葉を繋げる。

 しかし、それを遮るように返されたのは、理解不能な暴言だった。

「聖女になれなかったなりそこないのくせに、こんな所まで追って来たのか」

「えっ?」とオリヴィエが思わず声を上げる前に、ルーカスは言葉を続けた。

「そんなに俺を忘れられないのか? なら、一度くらい抱いてやろうか」

 ――はっ?

 オリヴィエは、その発言に耳を疑った。

 次いでルーカスの目を見て、自分の聞き間違いではなかったことを知る。

(えぇっ!? 何? 抱……)

 しかし、そんなオリヴィエの戸惑いなど知りもせず、ルーカスはさらに混乱させる行動を取った。

「ちょ、何するの」

 腰を引き寄せられて、オリヴィエは体勢を崩した。ルーカスの唇が、吐息を感じられるほど近づく。

「何って……わからないのか? 鈍い女だ」

(――!?)

 柔らかなものが唇に押し当てられた瞬間、オリヴィエは激しい衝撃を受けた。

 ルーカスの端正な顔が、眼界に入りきらないくらいの大きさまで迫っている。

(ええぇぇっ!?)

 突然の口づけに、オリヴィエは硬直した。

 あれだけ焦がれたルーカスからの口づけだ。しかし、解せない冷たい態度の数々。

 喜んで良いのか、驚くべきか、思考がついて来ない。

 しかし、そんなことはお構いなしにルーカスは舌を絡めてくる。

(なにっ? なんで!?)

「んっ……ふっ……!」

(何が起こっているの!?)

 オリヴィエは混乱しながらも咄嗟に抵抗を試みた。

 だが、心の底からの嫌忌ではないからか、振りほどくまでに至らない。

(え? あ……)

 そうしているうちに、ルーカスの手がオリヴィエの胸に触れた。

「や……いやっ!」

 手が、まさぐるように動く。

 オリヴィエは思わず、声を上げて、腕を思い切り突っぱねた。
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