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再会
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「おい、ヴィクター」
見かねたもう一人の男性が窘める声を出したが、当人達はどこ吹く風だ。
(あ……この人は見たことあるかも。もしかして騎士副団長のセルゲイ・ラヴロフ卿?)
「もういい。この男には構わず、先に進みなさい」
「わかりました。失礼します、副団長殿」
オリヴィエは恭しく頭を下げ、列の最後尾についた。
(それにしても……熊のような女って……)
オリヴィエは密かに笑いを零した。
容姿のことを指摘されても仕方ない。
いくら訓練しても、オリヴィエの身体にはいかにもな筋肉がこれ以上つかなかった。
「女みたいな名前だし、どんな事情かと不思議に思ったけど、やっぱり女なのか」
最後尾にいた新人の一人が、振り返る。
「俺はイヴァン・サルタリ、イヴァンって呼んでくれ」
くりくりっとした丸い目の、人懐っこい少年だった。
茶色い栗のような頭と瞳が印象的だ。
「イヴァン、私はオリヴィエよ。これからよろしく」
手を差し出されたので、元気よく握り返すと、その先に並ぶ一人、また一人と振り返って、オリヴィエに群がった。
「抜け駆けすんなよ、イヴァン。俺はマルコスだ」
「オリヴィエって、美人だよな。よろしくな」
列を乱しただけで注意されたのに、自分の配置から離れては怒られるのでは?
オリヴィエは危惧したが、詰め寄って来た面々にはそれぞれ挨拶を返す。
誰も、オリヴィエに話しかけるきっかけを探っていたようだ。
皆それぞれ個性豊かだが、悪い人達でもなさそうだ。
「寮に入ったら、皆で大浴場に入ろうぜ。裸の付き合いで、親睦を深めよ……」
ばこん
しんがりに破廉恥な提案を持ち掛けた男は、最後まで台詞を言い切ることができなかった。
「余計な口を叩かず、列に戻れ。こんなサル共が今年の合格生なのか……?」
オリヴィエの真後ろには、いつの間に接近していたのか、一人の騎士が佇んでいた。
しんがりの男は、その騎士に殴られていた。
「ひっ!?」
男達は短い悲鳴を上げて直立不動になる。しかし、オリヴィエだけは違う反応を見せた。
振り向いた先にいた人物に釘付けだった。
(……ルーカス……!)
その騎士こそ、10年以上前からずっと想い焦がれていた相手であったからだ。
「はい、団長。私はオリヴィエ・シルバーモントと申します」
(ルーカス……!!)
オリヴィエは心の中でその名を叫び、歓喜に胸を震わせた。
(やっと……会えた!!)
昔の面影はそのままに、ルーカスは見目麗しい美青年へと成長していた。
オリヴィエも成長したつもりだが、やはりルーカスには敵わない。
身長はオリヴィエよりも頭一つ以上大きくて、クリストファー以上に高く見上げる位置に琥珀色の瞳があった。
精悍な面立ちに、亜麻色の柔らかな髪。陽の光を宿した双眸は、オリヴィエの目を引きつけて離さない。
「女、か」
ルーカスがちらりと一瞥をくれると、オリヴィエの心臓はドキッと高鳴った。
しかし、当のルーカス自身は初対面のようなそぶりを見せた。
見かねたもう一人の男性が窘める声を出したが、当人達はどこ吹く風だ。
(あ……この人は見たことあるかも。もしかして騎士副団長のセルゲイ・ラヴロフ卿?)
「もういい。この男には構わず、先に進みなさい」
「わかりました。失礼します、副団長殿」
オリヴィエは恭しく頭を下げ、列の最後尾についた。
(それにしても……熊のような女って……)
オリヴィエは密かに笑いを零した。
容姿のことを指摘されても仕方ない。
いくら訓練しても、オリヴィエの身体にはいかにもな筋肉がこれ以上つかなかった。
「女みたいな名前だし、どんな事情かと不思議に思ったけど、やっぱり女なのか」
最後尾にいた新人の一人が、振り返る。
「俺はイヴァン・サルタリ、イヴァンって呼んでくれ」
くりくりっとした丸い目の、人懐っこい少年だった。
茶色い栗のような頭と瞳が印象的だ。
「イヴァン、私はオリヴィエよ。これからよろしく」
手を差し出されたので、元気よく握り返すと、その先に並ぶ一人、また一人と振り返って、オリヴィエに群がった。
「抜け駆けすんなよ、イヴァン。俺はマルコスだ」
「オリヴィエって、美人だよな。よろしくな」
列を乱しただけで注意されたのに、自分の配置から離れては怒られるのでは?
オリヴィエは危惧したが、詰め寄って来た面々にはそれぞれ挨拶を返す。
誰も、オリヴィエに話しかけるきっかけを探っていたようだ。
皆それぞれ個性豊かだが、悪い人達でもなさそうだ。
「寮に入ったら、皆で大浴場に入ろうぜ。裸の付き合いで、親睦を深めよ……」
ばこん
しんがりに破廉恥な提案を持ち掛けた男は、最後まで台詞を言い切ることができなかった。
「余計な口を叩かず、列に戻れ。こんなサル共が今年の合格生なのか……?」
オリヴィエの真後ろには、いつの間に接近していたのか、一人の騎士が佇んでいた。
しんがりの男は、その騎士に殴られていた。
「ひっ!?」
男達は短い悲鳴を上げて直立不動になる。しかし、オリヴィエだけは違う反応を見せた。
振り向いた先にいた人物に釘付けだった。
(……ルーカス……!)
その騎士こそ、10年以上前からずっと想い焦がれていた相手であったからだ。
「はい、団長。私はオリヴィエ・シルバーモントと申します」
(ルーカス……!!)
オリヴィエは心の中でその名を叫び、歓喜に胸を震わせた。
(やっと……会えた!!)
昔の面影はそのままに、ルーカスは見目麗しい美青年へと成長していた。
オリヴィエも成長したつもりだが、やはりルーカスには敵わない。
身長はオリヴィエよりも頭一つ以上大きくて、クリストファー以上に高く見上げる位置に琥珀色の瞳があった。
精悍な面立ちに、亜麻色の柔らかな髪。陽の光を宿した双眸は、オリヴィエの目を引きつけて離さない。
「女、か」
ルーカスがちらりと一瞥をくれると、オリヴィエの心臓はドキッと高鳴った。
しかし、当のルーカス自身は初対面のようなそぶりを見せた。
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