将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

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聖騎士

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 どの道どこかよその男に嫁ぐのなら、やむを得ないのか……。

 そう覚悟を決め始めた矢先に、起きた事件がこれだった。

「お兄様?」

 ハッと我にかえると、オリヴィエがこちらを見つめていた。

 反応の鈍い兄に、怪訝そうにオリヴィエが声を掛ける。

「あっ、いや……考え事とは何だ?」

 慌てて取り繕うクリストファーに、オリヴィエはクスクスと笑った。

「どうなさったの、急に慌てて」

 柔らかな日差しに照らされて、銀色の髪が煌めいたかと思うと、悪戯っぽい上目遣いが見上げてくる。

(ああ! オリヴィエ、可愛いっ……!!)

 心の叫びを表に出さないよう、クリストファーは必死に堪えた。

(落ち着け……落ち着くんだ、私の心臓! やはり、この子は天使だ。たとえ神であろうと、この子を連れて行かせはしない) 

 固く誓ったクリストファーは、ゴホンと咳払いをした。

「いや、我が妹ながら、美しさに惚れ惚れしていたのさ。それより何を考えていたの?」

 オリヴィエは、恥ずかしそうに俯いた。

「お兄様は、聖騎士として、王家に仕えていらっしゃるのよね? ルーカス殿下にもお会いになったことはあるの?」

 オリヴィエの問いかけに、クリストファーは内心ギクリとした。

「まあ……そうだな、近頃はお目に掛かる機会もあるかな」

 オリヴィエがあれほどルーカスに夢中なのを知っていて、クリストファーは敢えて話題を避けていた。

 いや、夢中だからこそ、か。

 実力は認めても、いつかはオリヴィエを攫って行く不届きな輩だ。

 名を聞くだけで苛立ちが募る。なるべく接触を持たないよう、避けて回った。

 オリヴィエにこの手の質問をされたくなくて、帰省の機会も減らしたほどだ。

 そのせいでオリヴィエ自身にも会えないのだから、本末転倒ではあるが。

「やっぱり! お兄様は、ルーカス様とお話されたことは?」

「いや……まあ、無いかな」

 嘘をついた。オリヴィエの手前、あまり認めたくは無いが、一度だけ会話をしている。

 挨拶もそこそこに、オリヴィエの近況ばかり尋ねられて閉口した。

 ルーカスは、オリヴィエに懸想している。

 2人が逢瀬も重ねず想い合っている姿は微笑ましい。だが、余計に面白くなかった。

「2人ともお忙しいものね。でも、お姿くらいは、目にすることができるのね」

 オリヴィエは、嬉しそうに言った。

 クリストファーは身構える。

 もしやルーカスに手紙や言伝てなどを依頼されるかと危ぶんだからだ。

 オリヴィエには悪いが、もうルーカスは忘れたほうが良い。

 オリヴィエの運命はともかく、王太子であるルーカスはいずれ聖女と結婚する。

 彼女の純愛は、かなりの確率で、もう叶わない。オリヴィエが傷つく姿は、見たくなかった。
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