上 下
12 / 140
聖騎士

しおりを挟む
 どの道どこかよその男に嫁ぐのなら、やむを得ないのか……。

 そう覚悟を決め始めた矢先に、起きた事件がこれだった。

「お兄様?」

 ハッと我にかえると、オリヴィエがこちらを見つめていた。

 反応の鈍い兄に、怪訝そうにオリヴィエが声を掛ける。

「あっ、いや……考え事とは何だ?」

 慌てて取り繕うクリストファーに、オリヴィエはクスクスと笑った。

「どうなさったの、急に慌てて」

 柔らかな日差しに照らされて、銀色の髪が煌めいたかと思うと、悪戯っぽい上目遣いが見上げてくる。

(ああ! オリヴィエ、可愛いっ……!!)

 心の叫びを表に出さないよう、クリストファーは必死に堪えた。

(落ち着け……落ち着くんだ、私の心臓! やはり、この子は天使だ。たとえ神であろうと、この子を連れて行かせはしない) 

 固く誓ったクリストファーは、ゴホンと咳払いをした。

「いや、我が妹ながら、美しさに惚れ惚れしていたのさ。それより何を考えていたの?」

 オリヴィエは、恥ずかしそうに俯いた。

「お兄様は、聖騎士として、王家に仕えていらっしゃるのよね? ルーカス殿下にもお会いになったことはあるの?」

 オリヴィエの問いかけに、クリストファーは内心ギクリとした。

「まあ……そうだな、近頃はお目に掛かる機会もあるかな」

 オリヴィエがあれほどルーカスに夢中なのを知っていて、クリストファーは敢えて話題を避けていた。

 いや、夢中だからこそ、か。

 実力は認めても、いつかはオリヴィエを攫って行く不届きな輩だ。

 名を聞くだけで苛立ちが募る。なるべく接触を持たないよう、避けて回った。

 オリヴィエにこの手の質問をされたくなくて、帰省の機会も減らしたほどだ。

 そのせいでオリヴィエ自身にも会えないのだから、本末転倒ではあるが。

「やっぱり! お兄様は、ルーカス様とお話されたことは?」

「いや……まあ、無いかな」

 嘘をついた。オリヴィエの手前、あまり認めたくは無いが、一度だけ会話をしている。

 挨拶もそこそこに、オリヴィエの近況ばかり尋ねられて閉口した。

 ルーカスは、オリヴィエに懸想している。

 2人が逢瀬も重ねず想い合っている姿は微笑ましい。だが、余計に面白くなかった。

「2人ともお忙しいものね。でも、お姿くらいは、目にすることができるのね」

 オリヴィエは、嬉しそうに言った。

 クリストファーは身構える。

 もしやルーカスに手紙や言伝てなどを依頼されるかと危ぶんだからだ。

 オリヴィエには悪いが、もうルーカスは忘れたほうが良い。

 オリヴィエの運命はともかく、王太子であるルーカスはいずれ聖女と結婚する。

 彼女の純愛は、かなりの確率で、もう叶わない。オリヴィエが傷つく姿は、見たくなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...