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選定式

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 悲しんでくれるのは、有難い。

 大切に想ってくれているのだと、愛情を確認できる。

「オルガノ様の預言が確かなら、私にはあまり時間が残されていないのですよね……?」

 オリヴィエは静かに告げた。

 頭の中は、不思議なほどの静寂で澄み渡っている。

「私は幾つまで生きられるのでしょう? 花の盛りとは何歳頃を指すと思われますか?」 

「そう、ですね。貴女のように強い命の糸ならば、恐らくは18歳前後」

 オルガノが慎重に考え込んで、口を開く。

「しかし、確かな数字はわかりません。もしよろしければ、定期的に貴女の未来を診せては頂けないでしょうか。さすれば幾ばくか詳しい情報が得られるかもしれません」

 18歳……。であれば、あと5年。やっぱり、そう長くない。

「高名なお医者様にそう申し出ていただけるなんて、光栄ですわ。けれどお忙しいのでは?」

「悲観すべき事柄ではないとはいえ、うら若いお嬢様には酷な預言でもあります。それに、申し上げた通り稀有な運命の持ち主だ。貴女が天寿を全うするお手伝いをしたいのです」

「ありがとう、オルガノ様。とても心強いわ」

 オリヴィエは微笑んだ。心からの感謝を込めて。

 しかし、どこか悲しげな気配が消え去らないでいる。

 それでも良いと思えていたはずだったのに、急に寂しさが込み上げて胸を締め付けた。

(私は……どうしてしまったのかしら)

 オリヴィエは、そっと胸元に手を触れた。

 まだ、心臓の鼓動がある。確かに生きている。

 だから何も変わらないはずなのに……何かを失った気もする。

「お嬢様、ご安心ください……預言が正しいかどうか、私にはわかりません。ですが、私はいつでも、お嬢様のお側におります」

 ミユが力強く頷きながら微笑むと、オリヴィエは胸が熱くなるのを感じた。

「そうだ、ミユも、私も、父上母上も……お前には、いつだって寄り添っている。お前は、一人じゃない。それにお前がどう思おうと、私は模索し続けるぞ。お前が、助かる道を」

 クリストファーが、オリヴィエの手を握った。

「お兄様……でも……」

「お前は、私のたった一人の妹だ。誰よりも大切なんだ」

 クリストファーは言い終えると、そっと手を離した。

「お兄さまもミユもとても優しくて……私は幸せ者ね。2人とも、大好きよ」

 オリヴィエは、本心からの微笑みを浮かべた。

 愛情に対する温かさ、喜び、昨日失った希望、これから失おうとしている物。

 様々への感情がないまぜになって押し寄せる。

 どう生きるかは、まだ定まらない。

 しかし、精一杯力を尽くして、悔いなく生きよう。

 そう決意して、オリヴィエはしっかりと前を見据えた。
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