8 / 140
選定式
7
しおりを挟む
オルガノはそっと、掌で包み込むようにして、オリヴィエの手に触れた。
油分の少ない指先は、かさかさとして、長い時を重ねた者の知恵の深さを感じさせた。
しかし、かさついた手は温かい。
触れたところからじんわりと、温もりが広がっていく。
「ああ……見える! 見えますよ!」
オルガノは目を開いた。
瞼の奥には、光を返さぬ瞳があった。
(見えてるの……?)
オリヴィエは少し、驚いた。
そんなはずはないのだ。盲目とはそう言うものであって、見えるはずがないのに――?
(いいえ、それがオルガノ様の能力なのかしら)
オリヴィエは感嘆の思いで、彼を見つめる。
「これは……貴女には、複雑に絡み合った特別な運命の糸が見える。それは若々しい樹木の青葉のように伸びて広がり、花盛りを前に突如として途切れる。神の御許に召され、新たなる生を授けられる宿命を負っていらっしゃる……」
「因果の、糸?」
「神の御許に召される、とは……」
オリヴィエが呟くと、クリストファーは唸った。
「それは、どのような意味を持つのでしょうか?」
関心のままにオリヴィエのは尋ねる。
失意のうちに沈んでいたオリヴィエだったが、オルガノの言葉に惹かれるものがあった。
「私は、見えたものをそのまま口にしました。通常、神の御許に召されるのは、その命を全うした時になるでしょう」
「オルガノ様!!」
クリストファーが声を荒げる。
言葉の続きを、強く遮った。
それもそのはずだ。
「ですから、ご依頼を頂いた際に、申し上げたではありませんか。預言の内容は良いものばかりとは限りませんと」
オルガノの予言を信じるならば、オリヴィエは花の盛りを迎える前に、神に召されることになる。
女性の花盛りが何歳の頃かは明確でないが、そう長くはないと予想される。
つまり、オリヴィエは若くしてこの世を去ると――?
「オルガノ様、何かの間違いではないのですか? オリヴィエは至って健康です」
クリストファーが、オルガノに詰め寄る。
「いいえ、私には見えます。貴女の命の糸が。他の方とは違う。とても力強いのに、唐突に途切れるのです……しかし、いつか神の御許に召されるのは人間の宿命、恐れることはありません」
「そん、そんな……!」
クリストファーはオルガノの手を掴んで、オリヴィエから引き剥がす。
しかしすぐに我に返り、謝罪を口にする。
「いえ、失礼致しました。ご無礼をお許しください……」
カシャーン
ミユが手を滑らせた。持っていたお盆を取り落とす。
しかし、すぐに拾う気配もない。
油分の少ない指先は、かさかさとして、長い時を重ねた者の知恵の深さを感じさせた。
しかし、かさついた手は温かい。
触れたところからじんわりと、温もりが広がっていく。
「ああ……見える! 見えますよ!」
オルガノは目を開いた。
瞼の奥には、光を返さぬ瞳があった。
(見えてるの……?)
オリヴィエは少し、驚いた。
そんなはずはないのだ。盲目とはそう言うものであって、見えるはずがないのに――?
(いいえ、それがオルガノ様の能力なのかしら)
オリヴィエは感嘆の思いで、彼を見つめる。
「これは……貴女には、複雑に絡み合った特別な運命の糸が見える。それは若々しい樹木の青葉のように伸びて広がり、花盛りを前に突如として途切れる。神の御許に召され、新たなる生を授けられる宿命を負っていらっしゃる……」
「因果の、糸?」
「神の御許に召される、とは……」
オリヴィエが呟くと、クリストファーは唸った。
「それは、どのような意味を持つのでしょうか?」
関心のままにオリヴィエのは尋ねる。
失意のうちに沈んでいたオリヴィエだったが、オルガノの言葉に惹かれるものがあった。
「私は、見えたものをそのまま口にしました。通常、神の御許に召されるのは、その命を全うした時になるでしょう」
「オルガノ様!!」
クリストファーが声を荒げる。
言葉の続きを、強く遮った。
それもそのはずだ。
「ですから、ご依頼を頂いた際に、申し上げたではありませんか。預言の内容は良いものばかりとは限りませんと」
オルガノの予言を信じるならば、オリヴィエは花の盛りを迎える前に、神に召されることになる。
女性の花盛りが何歳の頃かは明確でないが、そう長くはないと予想される。
つまり、オリヴィエは若くしてこの世を去ると――?
「オルガノ様、何かの間違いではないのですか? オリヴィエは至って健康です」
クリストファーが、オルガノに詰め寄る。
「いいえ、私には見えます。貴女の命の糸が。他の方とは違う。とても力強いのに、唐突に途切れるのです……しかし、いつか神の御許に召されるのは人間の宿命、恐れることはありません」
「そん、そんな……!」
クリストファーはオルガノの手を掴んで、オリヴィエから引き剥がす。
しかしすぐに我に返り、謝罪を口にする。
「いえ、失礼致しました。ご無礼をお許しください……」
カシャーン
ミユが手を滑らせた。持っていたお盆を取り落とす。
しかし、すぐに拾う気配もない。
35
お気に入りに追加
464
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる