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選定式

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「よくわからんが、お前は誰よりチャーミングで、勤勉な自慢の娘だ。自信を持って行ってくるんだ」

 オリヴィエの父は伯爵家の人間だが、商家出身の母を娶り、自身も若いうちから商売に勤しんでいた。

 数年前に、商品を国外へ輸出する為の貿易商を設立した。

 王国では国教会が幅を利かせていることもあり、外国から輸入される品は中々手に入らない。

 だがシャルルは国王や貴族との交流も深い。

 シャルルはその縁から商売を始めた。

 王国内でも貴重な鉄鉱石や希少な香辛料など、アルディア帝国では手に入りにくい品を仕入れ、その品々を国内外に流通させてきた。

 おかげで他国からも多くの商人が訪れ、売り上げも上々だ。

 シャルルは、その商売の手腕から、アルディアでは「王国の金貨」と呼ばれている。

「ほら、もう時間だ。皆が待っているぞ」

 シャルルに促されて、オリヴィエは一歩を踏み出した。

(そうよね。私が痛い女であろうとなかろうと、聖女になれば堂々とルーカスの伴侶になれるのよ)

 様々の出店が軒を連ねてお祭り然と化した広場から、聖堂に足を踏み入れる。

 荘厳な聖堂は、大勢の人で溢れていた。

 聖女選定の儀は、この国の者なら誰もが知る、一大イベントだ。

 祭壇の前には、若い娘が列をなして並んでいた。皆、戸籍を元に作成された黄色の紙片を手にしている。

 紙片には、名前と居住区、年齢が記されている。その者が満13歳を迎えている証だ。

 オリヴィエは、シャルルに渡された黄色の紙片を握りしめた。

 シャルルに手を振って列に加わると、周囲の注目が集まった。

「あの方が、シルバーモント家の……」

「では、次期聖女はあのお嬢さんか」

「美しい、あの娘さんが……?」

 人々の囁き合う声が耳に届く。

 アルディア王国は多民族国家だが、銀色の髪は珍しい。

 重ねてシルバーモント家と聖女の繋がりの深さから、オリヴィエに注目する者も多い。

 その彼女が、とうとう聖女に選ばれるのだ。人々の期待は、最高潮に達していた。

(それにしても、凄い人……)

 これだけの人が集まっているのに、聖堂の中が薄暗いせいだろうか? 

 厳かな雰囲気が漂う中、オリヴィエの心は不穏な気配に侵されつつあった。

「それでは、次の方」

 オリヴィエの番が来た。祭壇に上がると、否応なしに、聖堂内にいる全員の注目が集まる。

「オリヴィエ・シルバーモントさんですね」

 祭壇に立っていた神官が告げると、周囲からどよめきが上がった。

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