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美坊主の悪あがき
9話
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惣一郎はしばらく何も言えなかったが、悠耶も蕨乃も気長に待ってくれていた。
だが流石に、寂しい寺でも、人通りはある。
住職らしき坊さんが「おやおや、こんな所で……」なぞと、冷やかしながら通り掛かり、門を出て行った。
さもありなん。ここは寺の入口で、住職の家の敷地でもある。
惣一郎もはっと我に返り、悠耶から手を離した。
「すまねえ、驚かしちまって。あんまり嬉しくて、つい」
「うん。びっくりしたけど、そんなに喜んでくれておいらも嬉しいよ! いっぱい使ってね」
惣一郎は悠耶から間合いをとって、改めて周囲の様子を確かめた。
ここへ着いた時は頭もぐらぐらで、ほとんど周りが見えていなかった。
石段はわずか数段で途切れ、すぐ奥が本堂だった。
ふと気になった蕨乃は、表情は変わらずじまいだ。
だが、笑われている気がして、すぐ目を逸らした。
膝の脇には団子が三つ、串に刺さったまま転がっている。
(いけねえ。すっかり忘れてた)
団子を食べかけていたのを失念して、取り落としていた。
何処かで洗わねばならぬかと拾い上げる。
すると、林のあちこちから「あーっ」と小さく嘆息が起こる。
「惣一郎はんさえよければ、そのままにしといたって。食べたがっとる子らが、ぎょうさん集まって来たさかい」
「そんなに沢山やって来ているの?」
悠耶があたりを見回すと、蕨乃は頷いた。
また新手の妖怪か。
「そんなら、おいらもここに置いて行くよ。惣一郎、いいかな?」
食い意地が張っているようで、小さい者の前では思いの外、情深い。
見栄を張って年長風を吹かせがちな性格も、悠耶の長所だ。
惣一郎は立ち上がって尻の土埃を払った。
「構わねえよ。俺も調子が戻ったし、そろそろ帰るか。今日のお楽しみは、これからだからな。広小路にゃ、数えきれねえくらい出店があるぜ」
「そーうだった! 早く帰ろう!」
悠耶は火鉢に放り込んだ栗の如く飛び上がり、先陣を切って歩き出した。
惣一郎と蕨乃は、駆け足気味になる悠耶に続いて、浅草を後にした。
だが流石に、寂しい寺でも、人通りはある。
住職らしき坊さんが「おやおや、こんな所で……」なぞと、冷やかしながら通り掛かり、門を出て行った。
さもありなん。ここは寺の入口で、住職の家の敷地でもある。
惣一郎もはっと我に返り、悠耶から手を離した。
「すまねえ、驚かしちまって。あんまり嬉しくて、つい」
「うん。びっくりしたけど、そんなに喜んでくれておいらも嬉しいよ! いっぱい使ってね」
惣一郎は悠耶から間合いをとって、改めて周囲の様子を確かめた。
ここへ着いた時は頭もぐらぐらで、ほとんど周りが見えていなかった。
石段はわずか数段で途切れ、すぐ奥が本堂だった。
ふと気になった蕨乃は、表情は変わらずじまいだ。
だが、笑われている気がして、すぐ目を逸らした。
膝の脇には団子が三つ、串に刺さったまま転がっている。
(いけねえ。すっかり忘れてた)
団子を食べかけていたのを失念して、取り落としていた。
何処かで洗わねばならぬかと拾い上げる。
すると、林のあちこちから「あーっ」と小さく嘆息が起こる。
「惣一郎はんさえよければ、そのままにしといたって。食べたがっとる子らが、ぎょうさん集まって来たさかい」
「そんなに沢山やって来ているの?」
悠耶があたりを見回すと、蕨乃は頷いた。
また新手の妖怪か。
「そんなら、おいらもここに置いて行くよ。惣一郎、いいかな?」
食い意地が張っているようで、小さい者の前では思いの外、情深い。
見栄を張って年長風を吹かせがちな性格も、悠耶の長所だ。
惣一郎は立ち上がって尻の土埃を払った。
「構わねえよ。俺も調子が戻ったし、そろそろ帰るか。今日のお楽しみは、これからだからな。広小路にゃ、数えきれねえくらい出店があるぜ」
「そーうだった! 早く帰ろう!」
悠耶は火鉢に放り込んだ栗の如く飛び上がり、先陣を切って歩き出した。
惣一郎と蕨乃は、駆け足気味になる悠耶に続いて、浅草を後にした。
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