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美坊主の悪あがき

2話

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 悠耶が着物を着替え終わる頃、深如が迎えにやって来た。

 深如の兄弟子の奥方の、恵妙様が着替えの世話をしてくれた。

「本日は誠にありがとうございました。忘れぬうちに、こちらを。心ばかりですが事件解決の謝礼です。昼食もご用意できましたので、ご案内致します」

「どういたしまして!  おいらこそ、仕事をくれてありがとう。早く解決して良かったね」
  
 差し出された封を捧げ持つように額の上へ掲げて、受け取った。初仕事の給金だ。
  
 手応えがずっしり、とはいかないが気持ちはとても誇らしい。
  
 山門から本堂に至るまで、本願寺には沢山の庫裏やら塔頭やらが建っている。

 どれが何の用途の建物なのか、一見しただけでは外観の違いが見分けられない。
  
 案内してもらわなければ迷子になりそうだ。
  
 その内の一つの門をくぐり、中に入る。

「こちらです。奥へどうぞ」  

「お腹すいたぁ!  いい匂いがするなあ~」
  
 玄関を上がり、部屋に通されると、四畳ほどの畳の間の中央に、お膳が二つ用意されていた。

 いの一番にお膳に注目してしまったが、気づいてみれば部屋には誰もいない。

「あれ?  惣一郎は、どこへ行ったの?」

「いけない、伝えそびれておりました。惣一郎殿は急用を伝えに来た御使者と、先にお帰りになりましたよ」

「帰っちゃったの?  お昼も食べずに?」

「驚くのも無理はありません。けれどどうにもお急ぎだったようで。お悠耶は着替えの最中でしたしね、拙僧が責任を持ってお送りするとお約束致しました」

「ふぅん……。おいら一人で帰れるけど。まあいいや、じゃあこのお膳は深如のなんだね。もう食べてもいい?」

 あれだけ惣一郎自身が送ると主張していたのに、悠耶に一言もなく帰るなんてどれほど急ぎの要件だったのだろう。
  
 悠耶は先刻、深如と口論していた惣一郎の剣幕を思い出し、訝しんだ。

 だが腹の虫の騒ぎ方が尋常じゃない。
  
 すぐにどうでも良くなって昼飯が頭を占拠した。

「勿論ですとも。どうぞ召し上がれ」
  
 お膳の上には、握り飯と蕪の漬物、味噌汁に、《長谷屋》から頂いてきた豆腐の奴が並んでいる。
  
 悠耶は瞬く間にお膳の前に陣取り、手を合わせた。

「豪華な昼飯だなあ。頂きまーす!」
  
 お腹がぺこぺこで、まずは顔半分もある握り飯に噛り付いた。

 塩が効いていて実に美味い!  漬物も、外が暑いからしょっぱいくらいでちょうど良い。

「こんなに美味いもの、いつも深如は食べているの?  惣一郎は食べられなくて可哀想だなあ」

「お悠耶が奮闘して下さったので、いつもより品数が増えましたよ。見事なお手並みでございました。拙僧もご相伴にあずかります」
  
 深如は悠耶の向かいに腰を下ろし、静かに手を合わせる。
  
 箸を取った。悠耶は食事の手は休めず、静かに食べ進める深如をじっと見た。

 食べ始めたら、一言も喋らず物音の一つも立てない。食事の所作にも無駄がない。

 深如と食事を共にするのは昨日の《山田屋》と併せて、これで二回目だ。

 だが当然、毎日二度三度は食事をしているわけで……

 ひらりひらりと箸の先で掬われたおかずが、音もなく胃の腑に収まって行く。

 柔らかい蕪とはいえ、漬物すら無音で口内を通過させた。

「ぶぶっ、ふはははっ!  深如、大したもんだなあ!」
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