お江戸のボクっ娘に、若旦那は内心ベタ惚れです!

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
46 / 65
悪戯犯

4話

しおりを挟む
 深如の礼儀正しい姿を見直して、自分も仕事に来ている事実を思い出した。

 ちょいと考えてみれば、深如は仕事の依頼主だ。

「小僧、犯人取っ捕まえたら、また来いや。うちの美味い寿司をご馳走してやるからよ」

「わあ、おじさん、ありがとう!  きっとだよ」
  
 悠耶が笑顔で手を振ると、深如が神妙な顔で言い直す。

「ご主人、この子は、小僧ではなく、拙僧が嫁にと望む女子なのです。以後、お見知り置きを」

「へえ、女子……?  その上、深如さんの?  そりゃあ、失礼しました!」

「違うよ、おいらは深如とは――」

「おい、いいから先に行くぞ!」

 否定しようとしたところを、惣一郎に大きく袖を引かれた。

「あっ、惣一郎……。おじさん、約束だよー!」
  
 足を踏み出しながらも、悠耶は店主が約束を忘れないよう、体をねじって念を押す。

「あの野郎、外堀から固めていくつもりだな!  油断も隙もねえ」

 ぷりぷりと荒い息を撒き散らしながら、強引に左袖を引く惣一郎に引きずられないように、ついていく。

 深如はまだ会話を続けている。

「惣一郎、深如がまだ来てないよ」

「いいんだよ。お悠耶、まだわかってねえのか?」

「何をだい?」

 さっぱり見当がつかないので、悠耶は首を傾げた。

「あいつは強引にでもお悠耶を嫁にするつもりだぞ」

「そんな。おいら、うんとは返事をしないよ。いくら深如が無理をするんでもさ」

「お前が断れないところまで話を進めかねないぜ。どうする、浅草の連中が首を揃えて祝言を挙げてやれと迫ってきたら。風介さんが断りきれなくなる」

「ええ?  でも、おいらの気持ちは、変わらないよ?  広ーいお江戸には女の子も、一杯いるんだから、そのうち、気に入る良い子が現れるに違いないよ」

 目の前にいるのは惣一郎でいていつもの惣一郎でなかった。

 悠耶の話に呆れても、迷惑を掛けても、惣一郎の目は優しさに満ちていた。

 でも今は違う。今までにない厳しい眼差しを、悠耶に向けている。

 何でだろう。そんなに怖い顔しないで欲しい。

「お前がどう思っているかなんて、関係ないんだよ!  もっと警戒しろ」
  
 どうして怒るんだ?  おいらは、何も悪くないのに。腕だって、そんなに強く引く必要はないだろう。
  
 近所の者に叱られたり怒鳴られたりした体験は数知れない。

 だが、惣一郎にされた記憶はない。

「それに、お悠耶は江戸にたった一人だ。同じような女子なんて二人といねえ。そんな言い方は二度とするんじゃねえ」

 強い語気と命令口調に、悠耶はすっかり当惑してしまった。

 深如相手に怒りを向けている時は、どうしたのかくらいに考えていた。

 ところが、いざ自分に向けられると、結構、不愉快だ。

「おやおや、そんな言い方をして。惣一郎殿は女性に対する配慮が、足りない様子ですね。お悠耶が怯えているではありませんか」

「そんな。怯えてなんか、いねえだろ……」 
  
 追って来た深如が、惣一郎の手を悠耶の腕から外す。

 怯えているというか、単純に惣一郎が怖い。

 腕も痛かったから、不満が喉まで出かかっていた。

 でも、口にする前に用件が済んだ。

 目が合うと惣一郎は、すぐに顔を伏せる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...