お江戸のボクっ娘に、若旦那は内心ベタ惚れです!

きぬがやあきら

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古着屋に妖怪現る

11話

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 ゴトリとドアの向こうから音がした。嵯峨は誠にしゃべらないよう手で合図するとドアを開く。

 かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。

「盗み聞きとは感心しないねえ」 

 七人を見下ろして嵯峨が嘆く。

「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」 

「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」

「そうじゃねえ!」 

「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」 

「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」 

 かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。

「神前軍曹!これからもよろしく」 

「西園寺さん、曹長なんですが」 

「バーカ。知ってていってるんだ!」 

 かなめがニヤリと笑った。

「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」 

 嵯峨が頭を掻きながら言った。

「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
 
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」 

 愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。

「かなめちゃんなんか文句あるの?」 

 馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。

「別に」 

 かなめが頬を膨らましている。

 そこに島田が大き目の書類を持って現れた。

「神前います?」 

「ああ、そこに立ってる」 

 呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。

「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」 

 全員がその絵を覗き込む。

「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」 

 シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。

「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」 

 アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。

「駄目ですか?」 

 誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。

「神前。お前って奴は……痛いな」 

 かなめは呆れ半分でつぶやいた。

「それでこれが塗り替え後の完成予定図」 

 島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。

「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」 

「いいんじゃないのか?」 

 カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。

「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」 

 かなめが恐る恐る切り出す。

「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」 

 カウラは淡々と言う。

「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」 

 恐る恐る島田がかなめに尋ねた。

「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」 

 かなめは悲鳴にも近い声を上げる。

「じゃあ塗装作業に入りますんで」

 そういい終わると島田は大きなため息をつく。

「アタシももっと色々描こうかな……」 

 シャムがうらやましいというようにそう口にした。

「お願いだから止めてくれ」 

 いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。

「アタシはどうでもいいが」 

 続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。

「馬鹿がここにもいたのか」 

 いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。

「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
 
 嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。

「いいですよ!食堂で何か探しますから!」 

 島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。

「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」

「アイシャさん。僕がですか?」

「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」

 困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。

「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」

「アタシはココアだな」

「あそこは酒は置いてねえんだよな……」

 シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。

「じゃあ……行ってきます」

 今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。

 遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。

 そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
 
                                  了
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