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番外編
和貴の苦悩~番外編~その2
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”今度の日曜日”
「空……」
「あっ、ドラマだ! 朝見結城が出るやつ」
渾身の力をこめて声を絞り出すと、一瞬の差で先を深雪に持っていかれる。
意表をついた切り替えしに、途端二の句が告げなくなった。
「私が見たいって言ってたの、和貴君覚えててくれたんだ? ちょっと話しただけだったのに」
(……え? ……?)
とんだ勘違いだったが、深雪はそれがよほど嬉しかったらしい。
笑顔はいつもの三割り増しに輝き、白い手が腕に回される。
(ええええっ!??)
ゆっくりと、その小さな身体を寄せてくる。
「ありがとう。早速今日のうちに録画予約しちゃうね」
普段の深雪は、人目を気にするからこんな真似、決してするタイプではない。
なのに、何で! ここでこの展開なんだ?
これは神が与えたもうた試練なんだろうか?
いや嬉しい。嬉しすぎて体に電流が走るような感覚だけど。
けど……、でも嬉しいからむしろ困るっていうか。
だって深雪からこうまでされたら、黙って聖人みたいにつっ立ってはいられない。
今にもこの腕が動き出しそうだ。
でもここで今この娘を抱きしめるには。
(うっ……)
抱きしめる には――――
「うん。そうだね……」
数十秒の葛藤の末、
チケットを握り締めた手を、ポケットから抜き去って、和貴は深雪を抱き寄せた。
はにかみながらこちらを見上げ、微笑むその目には自分が映っている。
「えへへ、うれしい♪」
ああ、もう……っ
いいじゃないか。
これで十分幸せだぜと、和貴は自分で自分に言い聞かせた。
こんなに嬉しそうな深雪を前にして言えるものか。
『本当は違うんだ。日曜日ここへ行かない?』なんて。
握りつぶしたチケットは、有効期限間近の”東京LaCuaペアご優待券”
和貴が良心や見栄をぶっちぎってでも見たかったのは恋人の水着姿だ。
今この瞬間に、深雪の信頼を勝ち得ることこそ最善じゃないか。良くやった。
(……でも)
触れる深雪の身体は、どこもかしこも柔らかく、暖かい。
ほんのりと、甘い香りも漂う。
捨て置けないぬくもりだと、感じつつ、女々しくも和貴は胸中で一人ごちた。
(見たかったなぁ)
和貴たちの高校にはプールの設備がない。第一体育は男女別に行われる。
プールに誘いたくても、夏はまだずいぶん先だ。
はたから見れば激しくどーでもいい事柄なのだが、彼にとっては相当な一大事だった。
チケットを譲り受けてから今に至るまで、どれだけ胸を躍らせていたか。
12月3日の、只今午後4時5分32秒。
夕陽を受けてたたずむ背中は、学生服に似合わぬほどの哀愁を漂わせていた。
――――後日談。
和貴は深雪から『東京ラクーアに行かないか』と誘われる。手には例の優待券を携えて。
「これね、友香ちゃんが譲ってくれたの。期限が近いけど行けないから、私たちでどうかって」
それは和貴がチケットを譲った友人が、気を利かせて深雪に和貴を誘わせるようにしむけてくれたのに違いなかった。
が、深雪を誘い損ねたことなど一切口にしなかったのに……。
自分の思考はそこまで透けているのかと、素直に喜べない和貴なのであった。
「空……」
「あっ、ドラマだ! 朝見結城が出るやつ」
渾身の力をこめて声を絞り出すと、一瞬の差で先を深雪に持っていかれる。
意表をついた切り替えしに、途端二の句が告げなくなった。
「私が見たいって言ってたの、和貴君覚えててくれたんだ? ちょっと話しただけだったのに」
(……え? ……?)
とんだ勘違いだったが、深雪はそれがよほど嬉しかったらしい。
笑顔はいつもの三割り増しに輝き、白い手が腕に回される。
(ええええっ!??)
ゆっくりと、その小さな身体を寄せてくる。
「ありがとう。早速今日のうちに録画予約しちゃうね」
普段の深雪は、人目を気にするからこんな真似、決してするタイプではない。
なのに、何で! ここでこの展開なんだ?
これは神が与えたもうた試練なんだろうか?
いや嬉しい。嬉しすぎて体に電流が走るような感覚だけど。
けど……、でも嬉しいからむしろ困るっていうか。
だって深雪からこうまでされたら、黙って聖人みたいにつっ立ってはいられない。
今にもこの腕が動き出しそうだ。
でもここで今この娘を抱きしめるには。
(うっ……)
抱きしめる には――――
「うん。そうだね……」
数十秒の葛藤の末、
チケットを握り締めた手を、ポケットから抜き去って、和貴は深雪を抱き寄せた。
はにかみながらこちらを見上げ、微笑むその目には自分が映っている。
「えへへ、うれしい♪」
ああ、もう……っ
いいじゃないか。
これで十分幸せだぜと、和貴は自分で自分に言い聞かせた。
こんなに嬉しそうな深雪を前にして言えるものか。
『本当は違うんだ。日曜日ここへ行かない?』なんて。
握りつぶしたチケットは、有効期限間近の”東京LaCuaペアご優待券”
和貴が良心や見栄をぶっちぎってでも見たかったのは恋人の水着姿だ。
今この瞬間に、深雪の信頼を勝ち得ることこそ最善じゃないか。良くやった。
(……でも)
触れる深雪の身体は、どこもかしこも柔らかく、暖かい。
ほんのりと、甘い香りも漂う。
捨て置けないぬくもりだと、感じつつ、女々しくも和貴は胸中で一人ごちた。
(見たかったなぁ)
和貴たちの高校にはプールの設備がない。第一体育は男女別に行われる。
プールに誘いたくても、夏はまだずいぶん先だ。
はたから見れば激しくどーでもいい事柄なのだが、彼にとっては相当な一大事だった。
チケットを譲り受けてから今に至るまで、どれだけ胸を躍らせていたか。
12月3日の、只今午後4時5分32秒。
夕陽を受けてたたずむ背中は、学生服に似合わぬほどの哀愁を漂わせていた。
――――後日談。
和貴は深雪から『東京ラクーアに行かないか』と誘われる。手には例の優待券を携えて。
「これね、友香ちゃんが譲ってくれたの。期限が近いけど行けないから、私たちでどうかって」
それは和貴がチケットを譲った友人が、気を利かせて深雪に和貴を誘わせるようにしむけてくれたのに違いなかった。
が、深雪を誘い損ねたことなど一切口にしなかったのに……。
自分の思考はそこまで透けているのかと、素直に喜べない和貴なのであった。
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