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ことの顛末

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 和貴が脱衣所に入ると先客は一人しかいなかった。

「浜崎……」

 ぼさぼさの黒髪が何束か空に向かって浮いている。

 藤原拓也だ。

 彼も先ほど自分と同じく、教師の部屋へ呼び出されて説教を食らっていた。

 普段の素行が悪いせいで、和貴の方がこってりさんざんしぼられた。そのため、後から来た拓也のほうが早く解放されていた。

 名前を呼ばれたものの、和貴は素知らぬ振りで横を素通りし、衣服を脱ぎ始める。

 深雪との私情に巻き込んで悪かったと思わないでもないが、もともと彼が勝手に入り込んできた部分もある。

 こちらとしては別に怒っているわけでもない。

 しかし、わざわざ謝る気にもなれなかった。

「なんだよ、無視するなよ、浜崎……!」

 せっかくシカトを決め込んだのに。と、返事はせずに目だけを拓也へ移した。






 拓也は呼び止めたものの、言葉が続かない。
 
 和貴はやっとこちらへ注意を向けてくれたが、表情には振り向く前と何の変化もなく、胸中がまったく読み取れない。

 いったい何を考えているのか。

 怒っているなら文句の一つでも言ってくれた方が断然楽なのに……

 黙っていると注視にも飽きたのか、和貴はそのまま無言でシャツをまくり上げ、脱ぎ去った。

 ズボンもひざ下に落ち、すらりと伸びた肢体があらわになる。

 程よく厚く、引き締められた胸と腰。

 服の上からは細身に見えたのに、肌を晒すと想像以上に厚みがある。

 均整も取れていて、何と言っても足が長い。男の自分さえ見とれてしまうような見事な裸体がそこにあった。

 つい、目が釘付けになる。

 自分となんと違うことか。

「……男の裸がそんなにめずらしいか? でなきゃソッチの趣味でも?」

 ガン見し過ぎたせいか、和貴は下着までは取らずにようやく反応を示した。

「ばっ、馬鹿言うな! 僕が好きなのはふつーに植田さんで……あっ!」

 馬鹿正直な答えに和貴は方眉をはね上げた。

 だろうと気付かれてはいるだろう。でも、直接口に出すなんてあまりに間抜けな行為だ。

「いやだから違くて、僕はその」

「……」

「ただ僕はお前にもあやまらなきゃと思って……!」

 無理やりなつなぎだったが、どうにか当初の目的を遂げる。

「僕が余計なことしたせいでせっかくの旅行が……」

 説教部屋から解放され、部屋に戻るとさすがはネット社会。

 メールや電話で、既に騒動の内容は報道されており、深雪の口から発せられたほとんどを知ることができた。

 ラブホテルに連れ込まれると見えたのは勘違いで、しかもそれは深雪にプレゼントを贈るための、和貴のサプライズだった。

 話の内容に拓也の名前は挙がっておらず、深雪はうまく伏せておいてくれたようだった。

 だが、この横恋慕が現役高校生達にわからないわけがない。門限を破ったのは拓也も同じだ。

 皆の目が妙に同情的だったのが印象に残っている。



 ……そう、横恋慕だ。ばかばかしい。

 深雪が無理矢理、突き合わされているなんて都合の良すぎる解釈だった。

 僕さえ邪魔しなければどれだけ素敵な思い出になったことか。

「……だから悪かった! 本当にごめん。僕のせいでこんなことに……!」

 拓也は脇を締め、起立の姿勢から頭を下げた。

 もはや彼の中で和貴は、噂通りの血も涙もない暴力男ではなくなっていた。

 ちゃんと付き合ってみれば、案外いい奴なのかもしれない。

 告白はするわ、一大イベントの修学旅行でちゃっかりプレゼントを用意するわ。

 同年代のくせに出来過ぎた行動力はやや憎らしいが……。

 今回のことだって、拓也を悪者にすれば済むだけの話なのに誰にも口外せず、今も一言も責めずに話を聞いてくれている。




 「バカだな、お前」

 ふいに、フッと和貴の口から失笑が漏れた。

「?」

 拓也は意味がわからず首を持ち上げた。

「俺のこと本気でいい奴とか思ってんの?」

 今さっき部屋を出る時、コンタクトを置いてきてしまったが、今度ははっきりとわかった。

 和貴はこちらを見下ろし、勝ち誇った笑みを浮かべている。口元に赤い舌をのぞかせて。

 なんだ、どうしてこの流れでその顔をするのだ?

 実はいい奴なんだろ?

 僕が引っかき回したのにもかかわらず怒りもしない、噂とは正反対の、心の広い……

「そんなのお前のおかげでヤれたからに決まってんだろ」




 ――はっ?
 



 思いがけない発言に、一瞬で頭が真っ白になった。





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