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京都へ

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 処変わって、8畳、文字通り畳の部屋で、深雪は立ったまま教師の叱責を頭で受けていた。

「――もうとっとと、風呂にでも入って寝ろ!」

「はい。……ご心配をおかけして、すみませんでした」

 失礼します。と付け加え、頭を下げたまま襖を締める。踏込で靴を履き、室外へ出る。

 袖をまくって腕時計を見ると、短針はすでに10時を回っている。





 門限をとっくに過ぎて宿へ帰ると、カンカンに怒った担任教師2名が出迎えてくれた。

 B組里田とD組の春日だ。

 和貴が一度友香を通して連絡をしていたから実際の心配はそれほどでもなさそうだったが、大幅に門限を破ってしまった。怒られて当然だ。

 里田は普段の深雪を知っているから厳重注意くらいで済んだが、隣室から出てこられないところを見ると和貴はまだ怒られているらしい。

 耳をそばだてなくても、時折興奮した声が部屋から漏れる。

 引率する教師の部屋は個別に別れている。

 他の一般客や、他生徒への影響に配慮して、教師の個室で説教をされていたのだ。

 出てくるまで待とうかとしばし迷ったが、友香にも事情を説明しなければならないし心配もしているだろう。

 後ろ髪をひかれる思いで部屋へ戻る決意をすると、順番待ちをしていた拓也と鉢合わせた。

 深雪が行き先もつげずにいなくなったため、ずっと探してくれていたらしい。

 友香に伝言を頼んだ時はすでに遅かったのだ。

 深雪が部屋の前を塞いでいたため、タイミングを計っていたようだ。

 こんなに他人を巻き込んで……深雪はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。それに……

「藤原君……」

 彼にはもう一つ、謝らなければいけないことがある。

「ごめんなさい。私、迷惑を掛けて。それに……」

「……言わないで!」

 拓也は声を遮った。深雪が何を言わんとしているか、察していた。

「僕こそ……泣かせたりしてごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……」

 拓也には、深雪が走り去ったあの時、何の手がかりもなかった。

 どうにもならなくて、原田を頼りに友香の電話番号を調べて連絡するくらいしか思いつかなかった。

 その後もさんざん探して歩いた。

 だが、見つけられなかった。浜崎と同じ条件だったのに。

 自分なら泣かせないと思っていた。なのに、泣き止ませることさえできなかった。

「浜崎は……」

「えっ?」

〝君のことがわかるなんてうらやましい” と、ふと頭に浮かんだ言葉を拓也は咄嗟に飲み込んだ。

「ううん、なんでもない。本当にごめん。僕のせいで引っ掻き回して。……明日、お茶でも奢るよ。植田さんと、……浜崎にも」

 僕、これからなんだ。と苦笑いを浮かべながら拓也はドアをノックした。

 そのまま部屋へ入る。

「……ありがとう」

 見えなくなった背中に向かい、深雪はそっとつぶやいた。



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