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京都へ

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 シャリッ

 袋を傾けると、中から勢いよく何かがすべり出た。

 あわてて掌で受け止める。

「深雪には沢山迷惑かけたし、何かしたいと思ってた。だから一緒に行きたかったんだ。あの場所に、その……、ホテルがあることもその人から聞いてたのに」

 和貴は少し、声を淀ませながらも、説明を始めた。

 店舗の入り口はわかりにくい。分かりにくいから、ホテルを目印に来いとまで言われていたこと。

 ホテルの横の、敷地を延長した僅かな隙間が入り口になっていることを。

「えっ?」

 深雪は手の上を漫然と見つめた。

 あたりは暗いので確かではないが、それはネックレスのように見えた。

 銀色の鎖の先にペンダントトップが通っている。

 ……しかしなんでネックレスが?

 答えを求めて、和貴を見上げた。

「俺、工房に行くつもりしか頭になくて……。言い訳に聞こえるかもしれないけど」

 じっと、何かに耐えるようにこちらを見つめている。

「ホテルに入ると勘違いさせるなんて、思いもしなかったんだ」

「え?」

 じゃあ……

 あれは?

「本当にごめん。普通に考えればわかるのに、俺、勝手に浮かれてて……」

「そんなぁ」

 あまりといえばあまりな結末に、深雪は口の端をわずかに震わせた。

 と同時に恥ずかしさもこみ上げてくる。

「ごめん。だから許してほしいとかじゃないんだけど、それだけは信じて欲しくて」

 切なくゆがめられた瞳が、まっすぐこちらを向いている。

 本当に、……綺麗すぎて、私にはもったいない。

 こんなに大事にされているのに、一時でも疑うなんて。

「……ひどい」

 ぽつりと、恨み言が零れる。

「ひどいよ。そんなこと言うなんて」

「ごめん。俺、ホントに……!」



「私ばっかり変なこと考えて悩んじゃって、恥ずかしいじゃない!」



 謝らなきゃいけなかったのに、深雪は羞恥に負けて和貴を責めてしまった。
 
 顔を見せまいとして、胸元に身を投げかけた。

「深雪!?」

 完全な八つ当たりとは知りつつも、和貴を責めずにはいられない。

 なんだその格好良すぎる理由は。

 そんなことならあの場で釈明してくれれば良かったのに。

 泣いちゃったり、逃げちゃったりからまれちゃったり、なのに助けられたりして私ばっかり……!

 あまりにも、みっともない。

 もう和貴が拒絶しないとわかった上でこんなことをしている自分は、心底ずるいとわかっている。

 ちゃんと謝らなくちゃいけない。和貴だってきちんと話してくれたのだから私だって……。

「…………」

「……?」

 けれどなかなか言い出せない。自分を律するのに、ここはあまりに心地が良すぎる。

「深雪……? 怒ってるんじゃないの?」

「……怒ってるもん」

 顔が見えないのをいいことに、深雪は口をとがらせた。

 和貴に対して自分の子供さ加減が嫌になる。

 和貴はあんなにカッコいいのに、自分ばかり格好悪くて……。



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