ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

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京都へ

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 それは、硬かった。

 平らで、だが、無機質な壁とは違って温もりがあった。

(……いいにおい)

 鼻をかすめる香りには覚えがある。

 あんなことをしたのに。

 行き先なんか知らないのに、なんでここにいるのだ。

 毎回毎回、私が危ない時にはいつも――



「大丈夫?何かされてない?」

 声の主の注意がそれたのがこれ幸い。男ども二人はひぃっと逃げ出した。

 暗がりで向けられた眼光の鋭さは只者ではないと自ずから悟っていた。

 自分らのようなヤン僧とはわけが違う。

「ごめん、遅くて。俺……」

 抱きしめてくれるかと思ったのに、手は肩に置かれただけだった。

 やっぱり、あんな風に他の男の子と置き去りにしたことを怒っているのだろうか。

 それとも彼を拒否したことで嫌われてしまったのだろうか。

 でもそれならどうして助けになんか……



「俺、いつも泣かせてばっかだな」

「! 泣いてない! 泣いてないよ、私!」

 とっさに顔を上げると……、いつもの角度だ。見慣れた位置に瞳があった。

 切れ長で、愁いのある澄んだ瞳。今は少しだけ寂しそうに揺れている。

「和貴くん……」

 ごめんなさい、にありがとう。言わなければならないことも、聞きたいことも沢山あるのに言葉がすぐに出てこない。

 ただ、肩にある和貴の掌の暖かさが、たまらなく恋しかった。

「ごめん。俺……、少し話してもいい? 嫌になったらやめるから。」

 深雪が肩を気にしたのに気づき、和貴は乗せていた手を下ろす。

(和貴君……)

「うん……」

 ――悲しい。



 もっと触れていて欲しかった。出来ることなら抱きしめて欲しかった。

 嫌われたかもと不安になればなるほど、優しく抱きしめて欲しかった。

『そんなことないよ』といつものように笑って――

 深雪は、今度こそ泣いてはならないと歯を食いしばった。

 だって、悪いのは自分だ。きちんと話をしなければいけなかったのに。

 今だって、まずは気持ちを伝えなければ。

 そしてもし、その結果が和貴とわかりあえないものであれば、それは……

「俺、ここに行きたかったんだ。」




 上着のポケットに手を入れ、取り出したものを差し出される。

 受け取ると中からシャラリと乾いた音が聞こえた。

 手渡されたのはよく文房具屋などで見るボールペンサイズの小さな紙袋だった。

 白地に金の格子柄がプリントされている。

「前に世話になった人の工房がこっちにあって、時間があったら寄れって言われてて」

 和貴がどこに行きたかったのか、いまいちよくわからない。

 文房具屋さんに? そのときたまたまホテルを通りかかったとでもいうのだろうか?





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