33 / 43
京都へ
14
しおりを挟む
それは、硬かった。
平らで、だが、無機質な壁とは違って温もりがあった。
(……いいにおい)
鼻をかすめる香りには覚えがある。
あんなことをしたのに。
行き先なんか知らないのに、なんでここにいるのだ。
毎回毎回、私が危ない時にはいつも――
「大丈夫?何かされてない?」
声の主の注意がそれたのがこれ幸い。男ども二人はひぃっと逃げ出した。
暗がりで向けられた眼光の鋭さは只者ではないと自ずから悟っていた。
自分らのようなヤン僧とはわけが違う。
「ごめん、遅くて。俺……」
抱きしめてくれるかと思ったのに、手は肩に置かれただけだった。
やっぱり、あんな風に他の男の子と置き去りにしたことを怒っているのだろうか。
それとも彼を拒否したことで嫌われてしまったのだろうか。
でもそれならどうして助けになんか……
「俺、いつも泣かせてばっかだな」
「! 泣いてない! 泣いてないよ、私!」
とっさに顔を上げると……、いつもの角度だ。見慣れた位置に瞳があった。
切れ長で、愁いのある澄んだ瞳。今は少しだけ寂しそうに揺れている。
「和貴くん……」
ごめんなさい、にありがとう。言わなければならないことも、聞きたいことも沢山あるのに言葉がすぐに出てこない。
ただ、肩にある和貴の掌の暖かさが、たまらなく恋しかった。
「ごめん。俺……、少し話してもいい? 嫌になったらやめるから。」
深雪が肩を気にしたのに気づき、和貴は乗せていた手を下ろす。
(和貴君……)
「うん……」
――悲しい。
もっと触れていて欲しかった。出来ることなら抱きしめて欲しかった。
嫌われたかもと不安になればなるほど、優しく抱きしめて欲しかった。
『そんなことないよ』といつものように笑って――
深雪は、今度こそ泣いてはならないと歯を食いしばった。
だって、悪いのは自分だ。きちんと話をしなければいけなかったのに。
今だって、まずは気持ちを伝えなければ。
そしてもし、その結果が和貴とわかりあえないものであれば、それは……
「俺、ここに行きたかったんだ。」
上着のポケットに手を入れ、取り出したものを差し出される。
受け取ると中からシャラリと乾いた音が聞こえた。
手渡されたのはよく文房具屋などで見るボールペンサイズの小さな紙袋だった。
白地に金の格子柄がプリントされている。
「前に世話になった人の工房がこっちにあって、時間があったら寄れって言われてて」
和貴がどこに行きたかったのか、いまいちよくわからない。
文房具屋さんに? そのときたまたまホテルを通りかかったとでもいうのだろうか?
平らで、だが、無機質な壁とは違って温もりがあった。
(……いいにおい)
鼻をかすめる香りには覚えがある。
あんなことをしたのに。
行き先なんか知らないのに、なんでここにいるのだ。
毎回毎回、私が危ない時にはいつも――
「大丈夫?何かされてない?」
声の主の注意がそれたのがこれ幸い。男ども二人はひぃっと逃げ出した。
暗がりで向けられた眼光の鋭さは只者ではないと自ずから悟っていた。
自分らのようなヤン僧とはわけが違う。
「ごめん、遅くて。俺……」
抱きしめてくれるかと思ったのに、手は肩に置かれただけだった。
やっぱり、あんな風に他の男の子と置き去りにしたことを怒っているのだろうか。
それとも彼を拒否したことで嫌われてしまったのだろうか。
でもそれならどうして助けになんか……
「俺、いつも泣かせてばっかだな」
「! 泣いてない! 泣いてないよ、私!」
とっさに顔を上げると……、いつもの角度だ。見慣れた位置に瞳があった。
切れ長で、愁いのある澄んだ瞳。今は少しだけ寂しそうに揺れている。
「和貴くん……」
ごめんなさい、にありがとう。言わなければならないことも、聞きたいことも沢山あるのに言葉がすぐに出てこない。
ただ、肩にある和貴の掌の暖かさが、たまらなく恋しかった。
「ごめん。俺……、少し話してもいい? 嫌になったらやめるから。」
深雪が肩を気にしたのに気づき、和貴は乗せていた手を下ろす。
(和貴君……)
「うん……」
――悲しい。
もっと触れていて欲しかった。出来ることなら抱きしめて欲しかった。
嫌われたかもと不安になればなるほど、優しく抱きしめて欲しかった。
『そんなことないよ』といつものように笑って――
深雪は、今度こそ泣いてはならないと歯を食いしばった。
だって、悪いのは自分だ。きちんと話をしなければいけなかったのに。
今だって、まずは気持ちを伝えなければ。
そしてもし、その結果が和貴とわかりあえないものであれば、それは……
「俺、ここに行きたかったんだ。」
上着のポケットに手を入れ、取り出したものを差し出される。
受け取ると中からシャラリと乾いた音が聞こえた。
手渡されたのはよく文房具屋などで見るボールペンサイズの小さな紙袋だった。
白地に金の格子柄がプリントされている。
「前に世話になった人の工房がこっちにあって、時間があったら寄れって言われてて」
和貴がどこに行きたかったのか、いまいちよくわからない。
文房具屋さんに? そのときたまたまホテルを通りかかったとでもいうのだろうか?
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる