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京都へ

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 ……ん?

 お寺を出て、5分ほど歩いたころ。

 深雪は最初の違和感を感じていた。

 和貴の歩調がいつもより早い。

 いつもなら深雪の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるのに。

 半身ほど先を行く彼の後姿は、珍しくなにやら焦っているようだ。

(行きたい所って、遠いのかしら?)

 できる限り協力しようと深雪も黙ってペースを上げる。

 そうこうしているうちに先ほど降車したバス停を通り過ぎ、和貴はきょろきょろと周囲を見回し始めた。

 こんな姿、今まで見たことがなかった。

(どこに行くんだろ?)

 何かを探しているようではあるが、迷っているという感じでもない。

 大通りから一本奥の道にはいると、急に幅員が狭くなる。

 雑居ビルやアパートが立ち並び、周囲の圧迫感がぐんと増した。

 更に道を進む和貴の後を黙ってついていく。……と。

「ああ、ここだ。」

 足が止まった。

「深雪」

 立ち止まると、振り返った和貴は甘やかな声とともに手を差し出した。

(わ……)

 お付き合いが始まって約ひと月。

「和貴くん……」

 先日の事件のどさくさで抱きついたことはあったが、こうやって手をつなぐのは初めてだ。

 期待と恥じらいを抱きつつ、彼を見上げて……

 ついでにその背景までも目に入る。

 背景なんて流し見しても良さそうなものだったが、深雪の中の何かが予感をもたらしたのかもしれない。

 見逃してはならないと。

 煌々と光る電光掲示板に『ご休憩・ご宿泊金額』の文字が。

 あれ?

 ご宿泊はともかくご休憩とは??

 それになんだか入口が小さく妙に暗い。

(えっと、ここは? これは……)

 どういうことだろうと深雪は目をしばたいた。

 見慣れない光景。だが何となくは察しが付くことに、深雪はうっすらと気づいていた。

 でもそんな事実を、瞬時に受け入れられない。

 ここは、そんな、まさか……

「おいで」

 艶を含んだ声に、誘われるがまま右手が動いた。

 けれど頭の片隅が、疑問を投げかける。

“この手を取っていいの?”

(でも、和貴君はおいでって言ったし……)

 和貴は恋人だし、手もつなぎたい。

 手を差し出すことは自然じゃない。なにか問題があるというのか。

 脳内で、彼女の人格は二分化していた。自問自答が繰り返される。

 わけがわからず、というよりわかりたくない。

 だから余計に混乱していく。


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