ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

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(おかしいな。少しも嫌そうに見えない……)

 ちっとも不快そうな素振りを見せない深雪に、拓也は焦りを感じ始めていた。

(もしかしたら、植田さんは本当に……)

 好きなのだろうか? あんな奴が。

 学校則も社会規律も守らない。

 己の要求を通すために暴力をふるうような人種の、そんな男の、どこが。

 確かに、今日の一連の行動に、素行の悪さは見られなかった。

 けれど、あいつのどこがいい?

 そりゃあ、容姿では絶対に勝てない。腕っぷしでも負け確だ。

 でも、学力だって素行だって浜崎よりはいい。

 趣味や性格も植田さんとは合っているはずだ。自分のことをもっと知ってもらえれば、きっと伝わるはずなのに。

 チャンスは、もうないのだろうか?

 ほんの少し、出遅れてしまっただけなのに……。

















 深雪と和貴は、夢見心地のまま庭園をゆっくりと一周した。

 いつまでもこうして二人で眺めていたかったが、時間には限りがある。

 予定では少し市街地も観光するつもりでいたので、どちらが口にするでもなく山門へ向かった。

 二人とも多くを語らなかったが、それでも不思議と思いを共有できているという感覚があった。

「高岡に感謝だな」

「そうだね。私たちだけじゃきっとここに来ようってならなかったよね」

 くすりと、深雪は自分の恋愛ごとに関する無頓着さを笑った。

 けれどここ数週間の和貴も、そういったことにそれほど熱心ではなかった。

 デートと言えばもっぱら放課後の帰り道だ。

 和貴にはアルバイトがあるようだし、自分も予定が入っていた。

 なので休みの日にはまだ、どこかへ出かけたりもしていない。

 もちろんお出かけデートをしたり、朝から晩まで一緒にいておしゃべりしたり、すれば楽しいだろうとは思う。

 思いはするが、そう思うくらいで今はちょうどいい。

 これくらいの距離感がとても心地よかった。

 おそらく和貴も同じ気持ちでいてくれるのに違いない。

 頭一つ分とすこし。

 見上げると視線が重なる。

 見つめあうだけで気持ちが通じ合うような、そんな気がしていた。

「まだ時間に余裕があるけど……。和貴くん、どこか寄りたいところある?」

 腕時計に目を落とすと、現在19:39分。

 夕食後の各自自由出発だったので、大急ぎで食事を済ませたことと、行きにタイミングよくバス便に乗れたことが功を奏したようだ。

 友香たちとの待ち合わせは20:40分だから、あと一時間ほどはゆっくりできる。

「深雪は?」

「私は……特に。四人一緒だと思ってたし」

 友香と一緒にガイドブックを眺めはしたが、実際にはどれくらいの時間がとれるかわからなかった。

 目的がなくても、異国の地を四人でぶらぶらできれば充分に満足だった。

 四人で意見が分かれたら合わせようくらいの気持ちでいた。

「じゃあ……」

 わずかに思案した後、和貴が口を開く。

「いいかな。俺、行きたい場所があるんだけど……」

「うん。じゃあそこ……行こう……」

 溜めの後の一言に、不意に、どきん、と心臓が跳ねる。

 和貴の瞳は何かを決したような、鋭い光を秘めていた。

 木々の隙間から落とされた、月明かりが横顔を照らす。

(やっぱり・・キレイ)

 月光の魔力のせいだろうか。男性なのに、怖いくらいに色っぽく見える。

 まるで魔法にかけられたように、深雪は一歩足を踏み出した。

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