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京都へ
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高台寺行きは元々、友香が提案したものだった。
さすがにカップル歴が長いだけあり、イベント情報などの収集も意欲的だった。
和貴に光一、深雪にも反対する理由はない。
特に深雪は、和貴と見る夜景を、とても楽しみにしてくれていた。
「うわぁ……」
庭園に入ると、得も言われぬ美しさに深雪が感嘆の声を上げた。
色づいた紅葉が光を受け輝いている。紅色の彼方には竹林の濃い緑が透けていた。
かと思えば足元の池が立体のすべてを映し出していて、地上にいる心地がしない。
空気は冷たいのに頭上が紅に燃えているようだ。
普段は感情の起伏が薄い和貴だが、なるほど。これは一見の価値がある。
「これは本当に……」
綺麗だね。と声をかけようとして、和貴は声を失った。
もっともっと、綺麗なものをすぐそばに見つけたからだ。
高揚した頬に、うっとりと夢見るようにうるんだ瞳。
そこに自分の姿はなかったが、その清らかな輝きに心が満たされる。
――と同時に。
体の奥で想いが、鈍く疼いた。
深雪に触れたい。
至極当然の欲求だ。と、和貴は体験的に知っている。
だが、相手はこの深雪だ。
純真で清廉な深雪に……こんなに邪念たっぷりの気持ちで触れて良いものか。
こんなに近くにいて、こんなに愛らしいのに。
触れたいと思えば思うほど、どうしたら触れられるのかわからなくなってくる。
今までに女性に触れる機会は幾度かあった。けれど、こんな気持ちは初めてだ。
これまでにないほど強く、触れたいと感じるのに。
(なんだよ、浜崎のヤロー)
一方、二人を尾行して来た藤原拓也は、人ごみに紛れながら、ちらりちらりと様子を伺っては和貴を睨み付ける。
夜間とはいえ、期間限定のライトアップに観光客の入りは上々だった。
修学旅行のシーズンなので学生らしき人影もちらほらあり、拓也の存在はそれほど目立たずにすんでいた。
この場にそぐわない表情も、夜の闇とシチュエーションのお陰で人々の目には入らなかった。
(植田さんばっか見やがって、景色を見ろよ! このむっつりスケベ!)
「拝観料まで払って、何をやってんだ……」
ぎりぎり奥歯を噛んで、心の内を声に漏らす。
お前こそ、拝観料まで払って何をやっているのだ。
と、突っ込んでくれる友も、今はない……。
深雪の知るイルミネーションは、地上で瞬く星のように綺羅綺羅しいものだった。
だが今日は、また違う幻想的な景色に、足元が浮かぶような不思議な心地を味わっていた。
「ねえ、とっても綺麗ね……」
透き通る清々しい空気の中で、深雪は幽玄に身をゆだねていた。
感動の波が穏やかになり、感動を口にしたところで我に返る。
「うん。すごく綺麗だ」
耳に染み入るような優しい声で夢から醒めると、和貴がずっと自分を見ていたことに気がついた。
その眼差しの暖かさに、甘く胸がときめく。
どうしてこんなに素敵な人が私と一緒にいてくれるのだろう。
和貴は噂と違い、優しく紳士的だ。
それほど長い時を共に過ごしているわけではない。
けれど一緒にいる時は、いつでも深雪の事を第一に考えてくれている。
自分でも大切にされていることが、はっきりと分かる。
「和貴くん……」
こんな男の子が現実にいるのかと、思えば想うほど、際限なしに惹かれてしまう。
人を好きになるって、こんなに幸せな気持ちになるんだ。
深雪は新たな発見と喜びに、感動していた。
さすがにカップル歴が長いだけあり、イベント情報などの収集も意欲的だった。
和貴に光一、深雪にも反対する理由はない。
特に深雪は、和貴と見る夜景を、とても楽しみにしてくれていた。
「うわぁ……」
庭園に入ると、得も言われぬ美しさに深雪が感嘆の声を上げた。
色づいた紅葉が光を受け輝いている。紅色の彼方には竹林の濃い緑が透けていた。
かと思えば足元の池が立体のすべてを映し出していて、地上にいる心地がしない。
空気は冷たいのに頭上が紅に燃えているようだ。
普段は感情の起伏が薄い和貴だが、なるほど。これは一見の価値がある。
「これは本当に……」
綺麗だね。と声をかけようとして、和貴は声を失った。
もっともっと、綺麗なものをすぐそばに見つけたからだ。
高揚した頬に、うっとりと夢見るようにうるんだ瞳。
そこに自分の姿はなかったが、その清らかな輝きに心が満たされる。
――と同時に。
体の奥で想いが、鈍く疼いた。
深雪に触れたい。
至極当然の欲求だ。と、和貴は体験的に知っている。
だが、相手はこの深雪だ。
純真で清廉な深雪に……こんなに邪念たっぷりの気持ちで触れて良いものか。
こんなに近くにいて、こんなに愛らしいのに。
触れたいと思えば思うほど、どうしたら触れられるのかわからなくなってくる。
今までに女性に触れる機会は幾度かあった。けれど、こんな気持ちは初めてだ。
これまでにないほど強く、触れたいと感じるのに。
(なんだよ、浜崎のヤロー)
一方、二人を尾行して来た藤原拓也は、人ごみに紛れながら、ちらりちらりと様子を伺っては和貴を睨み付ける。
夜間とはいえ、期間限定のライトアップに観光客の入りは上々だった。
修学旅行のシーズンなので学生らしき人影もちらほらあり、拓也の存在はそれほど目立たずにすんでいた。
この場にそぐわない表情も、夜の闇とシチュエーションのお陰で人々の目には入らなかった。
(植田さんばっか見やがって、景色を見ろよ! このむっつりスケベ!)
「拝観料まで払って、何をやってんだ……」
ぎりぎり奥歯を噛んで、心の内を声に漏らす。
お前こそ、拝観料まで払って何をやっているのだ。
と、突っ込んでくれる友も、今はない……。
深雪の知るイルミネーションは、地上で瞬く星のように綺羅綺羅しいものだった。
だが今日は、また違う幻想的な景色に、足元が浮かぶような不思議な心地を味わっていた。
「ねえ、とっても綺麗ね……」
透き通る清々しい空気の中で、深雪は幽玄に身をゆだねていた。
感動の波が穏やかになり、感動を口にしたところで我に返る。
「うん。すごく綺麗だ」
耳に染み入るような優しい声で夢から醒めると、和貴がずっと自分を見ていたことに気がついた。
その眼差しの暖かさに、甘く胸がときめく。
どうしてこんなに素敵な人が私と一緒にいてくれるのだろう。
和貴は噂と違い、優しく紳士的だ。
それほど長い時を共に過ごしているわけではない。
けれど一緒にいる時は、いつでも深雪の事を第一に考えてくれている。
自分でも大切にされていることが、はっきりと分かる。
「和貴くん……」
こんな男の子が現実にいるのかと、思えば想うほど、際限なしに惹かれてしまう。
人を好きになるって、こんなに幸せな気持ちになるんだ。
深雪は新たな発見と喜びに、感動していた。
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