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放課後
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それに「旅行」と名はついても修学旅行は学校教育の一環であるが故、その行動はほとんどがクラス単位を余議なくされる。
日程にはたしか、一日目夕食後“自由散策”(外出自由)。
二日目午前9時から“自由行動”(班単位)。
この二種類の自由行動があったが……一日目の自由散策はともかく、二日目は班行動、クラス内の男女で班を組まなければならない。
「なにゆってるの!! そんなのどうにでもなるって! したら、私たちと一緒に班組もうよ!」
「へっ?」
「あっ、それいい考えだね! もちろん高岡さんも!」
瞬時に友香をも抱きこんだのは、クラスでもちょっと目立つ容姿の持ち主、愛子だった。
モテ系女子の判断力は素晴らしく、抜け目がない。
彼女は知っていた。
友香の彼氏が和貴と同じD組だということを。
「男子は私が説得してあげるから、浜崎達とおんなじ行き先にすればいいじゃん!!」
「え?」
深雪は話の流れについていけていなかった。
みんなと同じ班で?
和貴君とおんなじ行き先?
だってクラスが違うんだから――――
目で友香に助けを求めようと振り返ったが、彼女はすっかり納得した様子だ。もう話に乗っかっていた。
友香だって、できるものなら彼氏と一緒に観光したい。
「本当に? でもD組の女子は協力してくれる?」
「大丈夫! D組の友達でうちのクラスの男子狙ってる子知ってるから……」
「やばっ、田島来たよー!」
話が勝手にまとまりかけた時、三人組の中でも少しだけおっとり系のさくらが鋭く囁いた。
「じゃあ決まり! ――――とにかく任せといて!」
「また後でね!」
担任の足音を察して、蜘蛛の子散らすように三人は各々の席へ帰って行った。
友香も素知らぬ顔で、もう椅子に座っている。
一人だけのけ者にされてるようで釈然としなかったが、深雪も渋々席に着いた。
それとほぼ同時に担任の田島が教室に入ってくる。
(も~~、みんな、何よぉ!)
どうせまた次の休み時間には尋ねることができるのに、深雪は自分だけがわからないという状況にジレンマを感じていた。
そんな胸中などお構いなしにいつも通りのあいさつでホームルームが始められる。
最初の議題はタイムリーに、修学旅行の班ぎめについてだ。
明日のクラス授業までの間に班を決めておくようにとの指示が担任から下された。
深雪の頭もようやく、もやもやから修学旅行の予定へとシフトしていく。
もし、本当に和貴君と回れるのなら――
それはとてもありがたい申し出だ。
口元が、知らずのうちにほころぶ。
四人にもう一度話の筋を確認して、授業が終わったら和貴に相談に行こう。
もし一緒に回れるのなら。
今日も、これからも、きっと彼には会えるのに、楽しみでたまらない。
こんな風に過ごせる時間が新鮮だった。
このまま次の授業が始まって終わり、次の休み時間が来て、そのまた次、そのまた次と、時は過ぎて、やがてまた……
そうやって時は過ぎる。時と等しく、和貴への想いも、二人の思い出も増えていくのだろう。
姿勢を正して、教壇と向かいあう。
そう思ったら何一つ無駄にしてはいけない気がしたからだ。
これから過ぎる時間が、離れていてもそばに居ても、総て二人で過ごした時間の証になるように。
二人はまだ、始ったばかりだった。
日程にはたしか、一日目夕食後“自由散策”(外出自由)。
二日目午前9時から“自由行動”(班単位)。
この二種類の自由行動があったが……一日目の自由散策はともかく、二日目は班行動、クラス内の男女で班を組まなければならない。
「なにゆってるの!! そんなのどうにでもなるって! したら、私たちと一緒に班組もうよ!」
「へっ?」
「あっ、それいい考えだね! もちろん高岡さんも!」
瞬時に友香をも抱きこんだのは、クラスでもちょっと目立つ容姿の持ち主、愛子だった。
モテ系女子の判断力は素晴らしく、抜け目がない。
彼女は知っていた。
友香の彼氏が和貴と同じD組だということを。
「男子は私が説得してあげるから、浜崎達とおんなじ行き先にすればいいじゃん!!」
「え?」
深雪は話の流れについていけていなかった。
みんなと同じ班で?
和貴君とおんなじ行き先?
だってクラスが違うんだから――――
目で友香に助けを求めようと振り返ったが、彼女はすっかり納得した様子だ。もう話に乗っかっていた。
友香だって、できるものなら彼氏と一緒に観光したい。
「本当に? でもD組の女子は協力してくれる?」
「大丈夫! D組の友達でうちのクラスの男子狙ってる子知ってるから……」
「やばっ、田島来たよー!」
話が勝手にまとまりかけた時、三人組の中でも少しだけおっとり系のさくらが鋭く囁いた。
「じゃあ決まり! ――――とにかく任せといて!」
「また後でね!」
担任の足音を察して、蜘蛛の子散らすように三人は各々の席へ帰って行った。
友香も素知らぬ顔で、もう椅子に座っている。
一人だけのけ者にされてるようで釈然としなかったが、深雪も渋々席に着いた。
それとほぼ同時に担任の田島が教室に入ってくる。
(も~~、みんな、何よぉ!)
どうせまた次の休み時間には尋ねることができるのに、深雪は自分だけがわからないという状況にジレンマを感じていた。
そんな胸中などお構いなしにいつも通りのあいさつでホームルームが始められる。
最初の議題はタイムリーに、修学旅行の班ぎめについてだ。
明日のクラス授業までの間に班を決めておくようにとの指示が担任から下された。
深雪の頭もようやく、もやもやから修学旅行の予定へとシフトしていく。
もし、本当に和貴君と回れるのなら――
それはとてもありがたい申し出だ。
口元が、知らずのうちにほころぶ。
四人にもう一度話の筋を確認して、授業が終わったら和貴に相談に行こう。
もし一緒に回れるのなら。
今日も、これからも、きっと彼には会えるのに、楽しみでたまらない。
こんな風に過ごせる時間が新鮮だった。
このまま次の授業が始まって終わり、次の休み時間が来て、そのまた次、そのまた次と、時は過ぎて、やがてまた……
そうやって時は過ぎる。時と等しく、和貴への想いも、二人の思い出も増えていくのだろう。
姿勢を正して、教壇と向かいあう。
そう思ったら何一つ無駄にしてはいけない気がしたからだ。
これから過ぎる時間が、離れていてもそばに居ても、総て二人で過ごした時間の証になるように。
二人はまだ、始ったばかりだった。
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