14 / 43
放課後
9
しおりを挟む
とりあえず一番手近であったクラブの入り口横にある小部屋に入る。
「大丈夫? 痛くない?」
抱き上げた時よりも更に丁寧に、優しく、和貴は深雪を椅子に座らせた。
続いて手足を拘束していたロープをほどいてくれた。
壁際に置かれた小さな机と椅子、そして形ばかりのテーブルと二人分のソファ。
どうやら受け付け兼、事務所といったところの部屋らしい。
「……うん。大丈夫……」
身体は束縛から解き放たれて自由になったが逆に力が入れられない。
一度恐怖でこわばった筋肉は、なかなか元通りに機能してくれなかった。
「ごめん。本当に……また俺のせいでこんな目にあわせて……」
手の甲や足にできた擦り傷を見て、和貴は痛ましげに表情をゆがめた。
口を開いて何事かを言いかけて、また噤む。噤む。
深雪の肩に触れようとして――拳をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫だって」
はたから見たらやや頼りなかったかもしれないが、深雪は出来る限りの笑顔を見せた。
だって、和貴は助けに来てくれた。自分は無事だった。
怪我だって気にするほどのものではない。
「でも怖かっただろ? 何かされなかったか? こんな、震えて……」
そうだった。ダンスフロアーから救出されて以来ずっと、深雪の体は小さな震えが止まらなかった。
「これは……違うの。ごめんね」
「謝るなよ、悪いのは俺……」
涙が零れるのと、和貴の胸に身を寄せたのはほぼ同時だった。
そう、怖かった。怖くて心細くて、ずっと来てほしかった。
もう何も不安はないのだ。和貴がいてくれれば怖くない。
……泣いたら和貴が心配してしまうのはわかっていたが、気の緩みからか、涙を止めることはできなかった。
和貴は一瞬戸惑ったように、細い体に回しかけた手を止めた。
が、やがて壊れ物を扱うように、そうっと抱きしめる。
「怖かったの、和貴君。本当は、怖かった。こわかっ……」
安心できるぬくもりの中で深雪は何もかも忘れてしゃくりあげた。
暖かさがゆっくりと、身体を固めていた氷を溶かしてゆく。
どれくらい時が経ったのだろう。
指の先まで暖かさが満ちて、深雪はゆっくりと体を離した。
この落ち着き様はなんだろう。和貴の体からはα波でも出ているのだろうか。
「大丈夫? 痛くない?」
抱き上げた時よりも更に丁寧に、優しく、和貴は深雪を椅子に座らせた。
続いて手足を拘束していたロープをほどいてくれた。
壁際に置かれた小さな机と椅子、そして形ばかりのテーブルと二人分のソファ。
どうやら受け付け兼、事務所といったところの部屋らしい。
「……うん。大丈夫……」
身体は束縛から解き放たれて自由になったが逆に力が入れられない。
一度恐怖でこわばった筋肉は、なかなか元通りに機能してくれなかった。
「ごめん。本当に……また俺のせいでこんな目にあわせて……」
手の甲や足にできた擦り傷を見て、和貴は痛ましげに表情をゆがめた。
口を開いて何事かを言いかけて、また噤む。噤む。
深雪の肩に触れようとして――拳をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫だって」
はたから見たらやや頼りなかったかもしれないが、深雪は出来る限りの笑顔を見せた。
だって、和貴は助けに来てくれた。自分は無事だった。
怪我だって気にするほどのものではない。
「でも怖かっただろ? 何かされなかったか? こんな、震えて……」
そうだった。ダンスフロアーから救出されて以来ずっと、深雪の体は小さな震えが止まらなかった。
「これは……違うの。ごめんね」
「謝るなよ、悪いのは俺……」
涙が零れるのと、和貴の胸に身を寄せたのはほぼ同時だった。
そう、怖かった。怖くて心細くて、ずっと来てほしかった。
もう何も不安はないのだ。和貴がいてくれれば怖くない。
……泣いたら和貴が心配してしまうのはわかっていたが、気の緩みからか、涙を止めることはできなかった。
和貴は一瞬戸惑ったように、細い体に回しかけた手を止めた。
が、やがて壊れ物を扱うように、そうっと抱きしめる。
「怖かったの、和貴君。本当は、怖かった。こわかっ……」
安心できるぬくもりの中で深雪は何もかも忘れてしゃくりあげた。
暖かさがゆっくりと、身体を固めていた氷を溶かしてゆく。
どれくらい時が経ったのだろう。
指の先まで暖かさが満ちて、深雪はゆっくりと体を離した。
この落ち着き様はなんだろう。和貴の体からはα波でも出ているのだろうか。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる