ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

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放課後

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 とりあえず一番手近であったクラブの入り口横にある小部屋に入る。

「大丈夫? 痛くない?」

 抱き上げた時よりも更に丁寧に、優しく、和貴は深雪を椅子に座らせた。

 続いて手足を拘束していたロープをほどいてくれた。

 壁際に置かれた小さな机と椅子、そして形ばかりのテーブルと二人分のソファ。

 どうやら受け付け兼、事務所といったところの部屋らしい。

「……うん。大丈夫……」

 身体は束縛から解き放たれて自由になったが逆に力が入れられない。

 一度恐怖でこわばった筋肉は、なかなか元通りに機能してくれなかった。

「ごめん。本当に……また俺のせいでこんな目にあわせて……」

 手の甲や足にできた擦り傷を見て、和貴は痛ましげに表情をゆがめた。

 口を開いて何事かを言いかけて、また噤む。つぐむ。

 深雪の肩に触れようとして――拳をぎゅっと握りしめた。

「大丈夫だって」

 はたから見たらやや頼りなかったかもしれないが、深雪は出来る限りの笑顔を見せた。

 だって、和貴は助けに来てくれた。自分は無事だった。

 怪我だって気にするほどのものではない。

「でも怖かっただろ? 何かされなかったか? こんな、震えて……」

 そうだった。ダンスフロアーから救出されて以来ずっと、深雪の体は小さな震えが止まらなかった。

「これは……違うの。ごめんね」

「謝るなよ、悪いのは俺……」

 涙が零れるのと、和貴の胸に身を寄せたのはほぼ同時だった。

 そう、怖かった。怖くて心細くて、ずっと来てほしかった。

 もう何も不安はないのだ。和貴がいてくれれば怖くない。

 ……泣いたら和貴が心配してしまうのはわかっていたが、気の緩みからか、涙を止めることはできなかった。

 和貴は一瞬戸惑ったように、細い体に回しかけた手を止めた。

 が、やがて壊れ物を扱うように、そうっと抱きしめる。

「怖かったの、和貴君。本当は、怖かった。こわかっ……」

 安心できるぬくもりの中で深雪は何もかも忘れてしゃくりあげた。

 暖かさがゆっくりと、身体を固めていた氷を溶かしてゆく。







 どれくらい時が経ったのだろう。

 指の先まで暖かさが満ちて、深雪はゆっくりと体を離した。

 この落ち着き様はなんだろう。和貴の体からはα波でも出ているのだろうか。
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