ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

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(気持ち悪い!!)

 造作的に見れば杉原の顔自体はそれほど醜いものではなかったが、彼女から見れば奇人変人、間近で見せられれば気持ち悪くなって当然だ。

 つんと更に上体を遠ざけられたことを確認してから、杉原は深雪の耳元で囁く。

「ほんとはよ、お前いじめてあいつをうちのコマにしてやろうと思ってたんだけどよ。丁度今晩でかいヤマがあってさ。でも」

 耳とうなじに息がかかって益々おぞましい。寒気が襲って身体が縮みあがった。

「……っ」

「お前が素直に俺の女になるっていうんなら、いじめんのやめてやってもいいぜ?」

「は??」

 思わぬ展開に耳を疑い、つい目を向けてしまう。

 するとまさしく目と鼻の先に杉原のそれがあり、心なしか重くなったと感じた体には、杉原がのしかかっていた。

「なにーっっ!! なにするのっ!!」

 腹筋だけの力では耐え切れず、再び床に転がってしまう。
 
 2・3回、回転して移動を試みるが大した時間稼ぎにはならない。

 なにを言い出すのかこの男は。

 この前会った時は冴えないとかブスだとか言ってさんざんコケにしていたのに……。

「あなた……、私みたいなの、興味……」

「案外大人しい女もいいなって。今まで派手でうるせえのばっかりだったからよ。OBはごちゃごちゃうるせーかもしれねーけど、浜崎一人いなくたって負けやしねえよ。第一俺はあんな奴と手なんか組みたくねえんだ」

 訪ねてしまったのに聞きたくもない。誰もそんな理由知りたくないのに。

「おめえが俺に乗り換えればあいつのへこむとこも見られるし、お前もこの先狙われることもなくなる。いい話だろ? 俺だって結構うまいぜ??」

 ぱくぱくと、まさしく阿呆のように、こちらの口だけが鯉のように動き、言葉にならない。

 これは、まさに洒落にならない事態ではないか??

 冷静にならなければいけないと感じながらも、とても冷静になんて考えをまとめられなかった。

「こないでよ!!!」

 停止した思考とは別に、ただ本能だけが警鐘を鳴らす。

 某アイドルのコンサート後夜10時過ぎのローカル線で、酔っ払いと同じ車両の電車に乗った時よりもはるかに嫌な予感がする!!

 それは杉原が、酔っ払いよりもずっと無茶をすることが分かっているからだ。

 実際に頭でわかっていなくても、身体が記憶している。

「いやっ! 近づかないで!」

 何とか転がって、壁伝いに立ちあがってよろよろとドアにすがりついた。

 が、全身で押してもびくともしない。

「オイオイ、何が嫌なんだ? あいつは所詮一匹狼だし、いずれ不動とやれば勝ち目はねえ。トップは俺だ、いい話だろ? まぁムリヤリってのも・・」
 
 一歩、杉原が近づいた。

 気狂きちがいの様に扉に体をぶつけるが、開かない!

 開かないのだから違う方法を探さなければいけないのに頭がそこまで働かない。

「俺は嫌いじゃねえけど?」

「嫌よ!」

 とにかく嫌だ! 付き合うのも、これ以上触られるのも。どうしたら逃れられるのだろう!?     

「嫌! 助けてーー誰か! 開けてよ!!」

 クラブというからには部屋は完全防音の作りになっているに違いない。

 勿論、今深雪はそんなこと考えている余裕はなかったが―――とにかく声を出さずにはいられなかった。

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