ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
10 / 43
放課後

5

しおりを挟む
 ヤワとはなんだ。

 これでも小学校から高校まで通しで皆勤賞を取り続けている、健康優良児なのに。

 あんな風に乱暴に扱われて平気でいられる方がおかしいわ!

 馬鹿にした口調に思わず反論しそうになりながら、そんな状況ではない事を思い出し声を飲み込んだ。

 とりあえず黙ったまま、唯一自由になる頭だけを声のする方へ向ける。

 まず男性のものらしい大きく、踵のつぶれた皮靴を履いた足元が見えたが、首だけの回転ではここまでが限界だ。

 わずかにためらわれたが、身体ごとごろりと回して思い切ってその人物を見上げた。

 もうここまでくれば今更多少何をしても大差ないような気がしたからだ。

 開き直ったのか、徐々になるようになれという心境になってきた。

「あなた……」

 男の顔を拝んで深雪は眼を見張った。よくよく考えてみれば意外でも何でもない。

 先日の公園でとんでもない真似をしてくれた、杉原とかいう男だ。

「覚えててくれるとは光栄だね。まぁ、忘れたくっても忘れらんねえよな」

 含みのある物言いにむっとする。あんなこと、思い出したくもない。

 忘れて、なかったことにするはずだったのに。

 癪だったので深雪は、

「知らないわよ、あなたなんか。ただあんまり靴が汚いからどんな阿呆なのか想像してただけよ」

 憎まれ口を叩いてやる。

 深雪も和貴も酷い仕打ちを受けたのだから。これでも発言は抑えた方だ。

「へぇ、この状態でそんな口きくなんて、度胸だけは一丁前だな。また泣かされたいのか?」

 ……ほんとに、頭に来るこの男……!!

 深雪は今まであまり人を憎んだことがなかったのできちんと言葉で認識したことがない。

 だが、この男だけははっきりとわかる。嫌いだ!

 嫌いとはこういう感情を言うのだ!

「泣かすって、私泣かないわよ」

 こんな男の前で、二度と泣いてやるものか。

 二度と負けたくない。こんな男に、こんな卑怯なやり方で。

 泣いたら負けのような気がする。そして自分が負けるということが、和貴が負けることにも等しい気がする。

 だってこの男は和貴が目的で自分をここまで連れて来たのだから。

 「浜崎君をどうする気なの?」

 彼を呼び出して何をする気なのか。一度謝らせただけでは足りないのか。

「人のこと言ってる場合か? 自分がこんな目にあわされて。お前浜崎の餌扱いなんだぜ?」

「うるさいな。浜崎君こんなところに呼び出してどうする気よ!」

 どんな扱いなのかはわかってる。私がいるから浜崎君はこんな面倒なことに巻き込まれるのだ。

 一人だったら何をも恐れる必要のない彼が。

「バカだなお前。お前が浜崎に巻き込まれてんだろが。」

 馬鹿だと思ってる人間に馬鹿呼ばわりされて一瞬頭が真っ白になる。

「あっ……あなたに馬鹿呼ばわりされる筋合いないわよ!! 何のためにこんなことしてるのか聞いてるんじゃない。またご自慢のお友達と浜崎君いじめようっていうの!?」

「いーや、そんなことのためにここまで目立つことしねぇよ」

 サシでやったら負けないからなとかなんとか、随分都合の良いことばかり述べ始めたので、サシでやって勝てるならあんな振る舞いは必要のないことをどうやったらわからせることが出来るか、10秒ほど深雪は思案したが……

 馬鹿だから無理!

 という結論に早々と達した。

 本当に本気でそんなことを言ってるのだとしたら、気の毒なほど頭が弱いに違いない。

「じゃあなんでこんな……」

 100歩以上譲ってやって、話を先に進めるため強い・弱いという問題はなかったことにしてやる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

異世界!王道!!

まぁ
恋愛
可もなく不可もない毎日。 それなりに年齢を重ねていた久美子は、ある日を境に日常が一転する。 そこは知らない世界。 今流行りの異世界転生をまさか自分がする事になるとは… 見知らぬ世界で生きていく事になった久美子のこれから。果たして… 異世界で巻き起こる王道な出来事をどう受け入れる?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...