ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
6 / 43
放課後

1

しおりを挟む
「ね? かわいいでしょ? ね?」

「ふぅーーん」

 友香の、話を聞いた後の第一声は冷然としていた。

 昨日の話をファミレスに行ったところから延々と、深雪は話し続けていた。

 友香は相槌を打ちながら聞いてくれていたが、最後にはあきれたような笑い声を漏らした。

 先ほどから深雪は彼が優しいだとかかわいいだとか、あーだこーだとそんなことばかり延々と喋り続けていた。

 そりゃあ、あきれたくもなるというもの。

 昨日はあれほど怖がっていたくせに。

「思ってたより普通の人でしょう? 何かホッとしちゃって……」

「なら良かったじゃん。付き合って」

 友香があっさり言い放つ。

「えっ?」

「良かったわねー、素敵な彼氏ができて。すっかりのろけてくれちゃってまあ。ごちそうさまー」

 ……もとい、半分は皮肉らしい。

「え……ちがっ。あ、でも付き合うって……でもでもそんな彼氏だなんてそんな」

 深雪は深雪で舞い上がっているのか、平生の彼女には見られないリアクションで混乱していた。

 色恋とは難儀な沙汰だ。

「でもならなんで今日は一緒じゃなかったの?」

 友香はそんな彼女の態度をものともせず冷静にツッこむ。

 そうなのだ。昨日は頼まずとも登校前に自宅まで出迎えがあったのに、今朝深雪は和貴と登校してきていなかった。

「それは……」

 深雪は和貴の家を知らなかった。

 昨日ファミリーレストランで携帯電話の番号とLINEの交換をしていたが、深雪は〝迎えに来てくれないの?”などと、朝イチで連絡ができる女ではない。

「後でメッセージ送ろうと思ってはいるんだけど」

 電話を使うのもなんとなくはばかられて、気になったものの連絡できずじまいだった。

 結局和貴は五限が終わるまで学校自体に来ていなかった。

(ひょっとしたら……)

 思ったよりも昨日の怪我が酷いのかもしれない。

 それにたとえ怪我がそれほどのものではないとしても顔に傷が目立つうちは来づらいのかもしれない。

 そうだとすればしばらく会うことが出来ないのかも……。それは少し淋しいような……。

(え……!?)

 いやいやいや、淋しくない、淋しくなど。

 元々一昨日の一昨日まで一言も口をきいていなかった人間だ。

 2・3日会えないところでそうそう淋しくなるものでもないだろう。

 急に淋しい、など現金な証拠だ。

「電話にすれば。カノジョなんだからさぁ。さ、誰もいないからすぐにかけなよ」

 神妙そうに固まった深雪を友香が冷やかす。

「今?? しないよ! ムリムリ、いきなり電話なんて。もう出よう!」

 長話をしていたのは深雪なのに、あべこべに退出を促す。

 いつの間にか教室には二人しか残っておらず、校舎内にも人影は少ない。

 部活動や委員会がある生徒、帰宅部の生徒達も各々既に活動場所へと散っていた。

「友香ちゃんたちは電話するよね? 何を話すの?」

「えー? うちらはあんまり電話しないかな。家だと家族も煩いし。ほぼLINE」

「なんだ、友香ちゃんもじゃん!」

 この高校に入って、友香と出会った時にはすでに友香には彼氏がいた。
 
 同じ中学校から来た2年D組(和貴とおんなじクラスだ)の佐竹光一である。

 ……付き合うって、そうなる前と何か違うの?

 自然に湧いた疑問に羞恥を覚えて、深雪は口を噤む。

 友香でなくとも中学の時からいわゆる“付き合っている”クラスメイト達も深雪の中学校にいた。

 自分の親も周囲の親も、結婚して友人や自分を生んでいるわけだし、男女がお互いを好きあって対で行動することには何の疑問もなかった。

 だが、いざ自分がその立場になってみると“付き合う”というのが何なのかわからない。

 たしかに昨日一緒に食事をして、話して楽しくて、意外な共通点に分かり合えるという喜びもえられたような気がする。

 こういう時間も幸せかも、と和貴は思わせてくれた。

 が、まだ確信には至らない。

 今は分からなくても、和貴と時を過ごせばいずれ、わかってくるのだろうか。

「どしたの?真剣な顔して」

「ううん。そんな顔してた?」

 笑顔で手を振って、駅の改札で深雪は友香を見送った。

 不思議なもので先ほどの疑問を抱いた瞬間から、何となく友人が普段よりも大人びて見えていた。

 そしてどこからともなく湧いた感情の下、深雪はその夜ダイヤルを押し、電話番号の相手が出るのを待った。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...