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深雪と和貴
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「もう……やめてよー!!」
行為の凄惨さに耐えかねて、深雪は叫んでいた。
深雪が和貴と二人で、公園へやって来たのは6時限が終わってすぐだ。
ただでさえ薄暗い公園から、影法師が消え去ってからもう大分経っている。
あれから、どう考えてももう10、いや20分以上、彼は暴力を受け続けている。
「浜崎くんが死んじゃう……っ」
つかまれた腕はいくらばたついても振りほどくことが出来ない。
――彼はそのせいでこんな目にあっているのに。
「……気にいらねーなぁ。」
ぽつり、とリーダー格らしき男が和貴の頭部を踏みつけて言った。
「何でスか? 俺スッキリしましたよ。まさかあの浜崎タコれるなんて」
茶髪に剃り込みの入った男だ。皆同じ学ランなので、服装では区別がつかない。
彼がポケットから煙草を取り出し口にくわえると、ずっと横に張り付いていた小男がそれに火をつける。
「コイツよぉ、こんな目にあってるのに詫びいれねぇんだぜ? 気分わりーったらねえよ!」
言いながら更に足に力を込める。
ジャリジャリと砂の擦れる音が悲痛に響いた。
「気に入らないって、それ以上浜崎くんに何するって言うのよ、殴るとこなんて残ってないじゃない!」
和貴一人なら、こんな風にはならなかっただろう。
昨日も先刻も、彼は鬼のような身体能力を誇っていた。強い姿を知っているだけに目の前の光景は悪夢のようだ。
「オーイ、浜崎よぉ、杉原さんの言葉聞こえただろ?ワビだよワビ!ワビいれんだよ!!」
「――――――んだよ・・」
「あぁ!?」
「テメェなんかにあ……たま、……げるくれぇなら死、んだ方が……んだよタコ」
和貴が途切れ途切れに回答した途端、格下らしい男の額に青筋が浮き上がる。
「フザケてんじゃねえぞ!! タコはどっちだボケ!!」
怒りにまかせて和貴の頭に足を振り下ろす。
「あっ・・」
一度は止んだはずの攻撃の再開に一瞬深雪は身じろぐ。
「やっ、ヤダ、本当に死んじゃう……、ねぇもういいでしょ? 止めてよ、ねえ!!」
怖かったが言わずにはいられない。
このままでは本当に和貴が死んでしまう気がした。頭と言わず顔といわず、至る所から流れた血が、砂にまみれている。
不良を恐ろしい生物として恐れていた。しかし、まさかここまでとは……。
「こんなことして何になるっていうのよ、浜崎くんが死んだらみんな犯罪者になっ……」
バンッ
「!!」
今までに受けた経験のない打撃を顔面に加えられる。
頬をはたかれた衝撃で眼鏡が地面へ落下して割れた。
「うっせーんだよこのアマが! ブスのくせしやがって黙ってろ!!」
……頬も痛いが、口の中も痛い。不意の衝撃だったので思わず口の中を切ってしまった。
恐怖と悔しさで眼に熱いものがこみ上げたが、唇をかみしめ殴った相手を睨みつける。
恐らく和貴はもっと、自分の何倍も痛い目にあっている。
こんな卑怯な連中の前で、泣いてなどやるものかと思った。
その横で“杉原”がピュウっと口笛を吹いた。面白いものでも見つけたように。
「ヘェー、浜崎ぃ、テメェの女よー」
テメェの女とはつまり深雪のことだ。
深雪としてはまだ正式に彼の彼女になったつもりはないのだが、とりあえず追及している場合ではない。
杉原はこちらに近づいてくる。
「メガネとるとわりとマブイんじゃねえの?」
行為の凄惨さに耐えかねて、深雪は叫んでいた。
深雪が和貴と二人で、公園へやって来たのは6時限が終わってすぐだ。
ただでさえ薄暗い公園から、影法師が消え去ってからもう大分経っている。
あれから、どう考えてももう10、いや20分以上、彼は暴力を受け続けている。
「浜崎くんが死んじゃう……っ」
つかまれた腕はいくらばたついても振りほどくことが出来ない。
――彼はそのせいでこんな目にあっているのに。
「……気にいらねーなぁ。」
ぽつり、とリーダー格らしき男が和貴の頭部を踏みつけて言った。
「何でスか? 俺スッキリしましたよ。まさかあの浜崎タコれるなんて」
茶髪に剃り込みの入った男だ。皆同じ学ランなので、服装では区別がつかない。
彼がポケットから煙草を取り出し口にくわえると、ずっと横に張り付いていた小男がそれに火をつける。
「コイツよぉ、こんな目にあってるのに詫びいれねぇんだぜ? 気分わりーったらねえよ!」
言いながら更に足に力を込める。
ジャリジャリと砂の擦れる音が悲痛に響いた。
「気に入らないって、それ以上浜崎くんに何するって言うのよ、殴るとこなんて残ってないじゃない!」
和貴一人なら、こんな風にはならなかっただろう。
昨日も先刻も、彼は鬼のような身体能力を誇っていた。強い姿を知っているだけに目の前の光景は悪夢のようだ。
「オーイ、浜崎よぉ、杉原さんの言葉聞こえただろ?ワビだよワビ!ワビいれんだよ!!」
「――――――んだよ・・」
「あぁ!?」
「テメェなんかにあ……たま、……げるくれぇなら死、んだ方が……んだよタコ」
和貴が途切れ途切れに回答した途端、格下らしい男の額に青筋が浮き上がる。
「フザケてんじゃねえぞ!! タコはどっちだボケ!!」
怒りにまかせて和貴の頭に足を振り下ろす。
「あっ・・」
一度は止んだはずの攻撃の再開に一瞬深雪は身じろぐ。
「やっ、ヤダ、本当に死んじゃう……、ねぇもういいでしょ? 止めてよ、ねえ!!」
怖かったが言わずにはいられない。
このままでは本当に和貴が死んでしまう気がした。頭と言わず顔といわず、至る所から流れた血が、砂にまみれている。
不良を恐ろしい生物として恐れていた。しかし、まさかここまでとは……。
「こんなことして何になるっていうのよ、浜崎くんが死んだらみんな犯罪者になっ……」
バンッ
「!!」
今までに受けた経験のない打撃を顔面に加えられる。
頬をはたかれた衝撃で眼鏡が地面へ落下して割れた。
「うっせーんだよこのアマが! ブスのくせしやがって黙ってろ!!」
……頬も痛いが、口の中も痛い。不意の衝撃だったので思わず口の中を切ってしまった。
恐怖と悔しさで眼に熱いものがこみ上げたが、唇をかみしめ殴った相手を睨みつける。
恐らく和貴はもっと、自分の何倍も痛い目にあっている。
こんな卑怯な連中の前で、泣いてなどやるものかと思った。
その横で“杉原”がピュウっと口笛を吹いた。面白いものでも見つけたように。
「ヘェー、浜崎ぃ、テメェの女よー」
テメェの女とはつまり深雪のことだ。
深雪としてはまだ正式に彼の彼女になったつもりはないのだが、とりあえず追及している場合ではない。
杉原はこちらに近づいてくる。
「メガネとるとわりとマブイんじゃねえの?」
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