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サプライズ
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「わたくしたちのために、シオンにばかりに不便を強いてしまったから。少しでも喜んでもらいたくて、結婚式を企画したの」
うふふっ、と悪戯そうな微笑みを浮かべて、ヴェーシュはシオンに歩み寄った。
「結婚式? ああ……」
だからこんな格好をさせられたのか……。
純白のドレスは花嫁衣装だったんだ。とすんなり納得しかけて、シオンは叫んだ。
「結婚式って、ひょっとして、私たちのですか!?」
思わず声が裏返る。
「そうよ、シオンと、ヴァイスの結婚式よ!」
ヴェーシュは目を輝かせて、シオンの両手を包み込んだ。
ヴェーシュの瞳は曇りがない。シオンを喜ばせようとしてくれている純粋な想いが全身から溢れていた。
”そんな、気を遣って頂かなくても”
”ありがとうございます”
いつもだったら咄嗟に、そんな感謝が口をつくはずだった。
なのに、一瞬、言葉に迷ってしまう。
胸がぎゅうっと音を立てるように軋んだ。
どうしたら良いのか。軽いパニックに陥ったように、シオンは落ち着きなく視線を彷徨わせた。
周囲には見るともなしに主人らを見守る侍女たちが壁際に沿って待機している。
手前には、同じく優しい微笑みを湛えるネンゲルが。
それらの景色がぼやっと滲んで、温かい雫がはらりはらりと頬を滑り落ちる。
「あらあら、シオン。泣かないで」
ヴェーシュがそっと、指で頬を拭ってくれる。
「あ、りがとうございます。……私なんかのために」
「そんなに喜んでくれるのなら企画した甲斐があったわ。でもね、本当は足りなくて申し訳ないくらいなのよ。シオンがいなければ私の幸せはなかったわ」
大袈裟な賛辞に首を振ると、もっとポロポロと涙が溢れた。
正直なところ、嬉しいのかどうか、実感が湧かない。
けれど涙が溢れているのだから、心が揺さぶられているには違いない。
「私もだ、シオン。愛するヴェーシュを手に入れても、幸福とは程遠かった。本来ならばヴァイスとシオンの結婚式はもっと盛大に催すべき祝典だ。内々のもので済まないが、気負わずに受け取って欲しい」
どうしてこんなに涙が出るのだろう。知らずのうちに結婚式に憧れていたのか。
期待などしていなかったはずなのに、心のどこかで寂しく思っていたのか。
この感覚を的確に表現する言葉が見つからない。
ただ胸の奥が熱くて、力を入れていないと嗚咽が漏れてしまいそうだった。
「まだ始まる前なのにお化粧が落ちてしまうわよ」
「あ、は……い。すみませ……」
手では拭いきれない涙に、侍女がヴェーシュにハンカチを手渡す。
涙を拭ってくれるのに甘えながら、シオンは必死に呼吸を整えた。
「シオンがこんなに喜んでくれているのに、ヴァイスがまだ来ないのがもどかしいな。計画では今頃、教会で私にエスコートされるシオンをヴァイスが祭壇で待っている段取りだったんだが。全く、思うように行かないな。サプライズというのは難しい」
ネンゲルが肩を竦めると、ヴェーシュは「そうですね」と口に手を当てて笑った。
うふふっ、と悪戯そうな微笑みを浮かべて、ヴェーシュはシオンに歩み寄った。
「結婚式? ああ……」
だからこんな格好をさせられたのか……。
純白のドレスは花嫁衣装だったんだ。とすんなり納得しかけて、シオンは叫んだ。
「結婚式って、ひょっとして、私たちのですか!?」
思わず声が裏返る。
「そうよ、シオンと、ヴァイスの結婚式よ!」
ヴェーシュは目を輝かせて、シオンの両手を包み込んだ。
ヴェーシュの瞳は曇りがない。シオンを喜ばせようとしてくれている純粋な想いが全身から溢れていた。
”そんな、気を遣って頂かなくても”
”ありがとうございます”
いつもだったら咄嗟に、そんな感謝が口をつくはずだった。
なのに、一瞬、言葉に迷ってしまう。
胸がぎゅうっと音を立てるように軋んだ。
どうしたら良いのか。軽いパニックに陥ったように、シオンは落ち着きなく視線を彷徨わせた。
周囲には見るともなしに主人らを見守る侍女たちが壁際に沿って待機している。
手前には、同じく優しい微笑みを湛えるネンゲルが。
それらの景色がぼやっと滲んで、温かい雫がはらりはらりと頬を滑り落ちる。
「あらあら、シオン。泣かないで」
ヴェーシュがそっと、指で頬を拭ってくれる。
「あ、りがとうございます。……私なんかのために」
「そんなに喜んでくれるのなら企画した甲斐があったわ。でもね、本当は足りなくて申し訳ないくらいなのよ。シオンがいなければ私の幸せはなかったわ」
大袈裟な賛辞に首を振ると、もっとポロポロと涙が溢れた。
正直なところ、嬉しいのかどうか、実感が湧かない。
けれど涙が溢れているのだから、心が揺さぶられているには違いない。
「私もだ、シオン。愛するヴェーシュを手に入れても、幸福とは程遠かった。本来ならばヴァイスとシオンの結婚式はもっと盛大に催すべき祝典だ。内々のもので済まないが、気負わずに受け取って欲しい」
どうしてこんなに涙が出るのだろう。知らずのうちに結婚式に憧れていたのか。
期待などしていなかったはずなのに、心のどこかで寂しく思っていたのか。
この感覚を的確に表現する言葉が見つからない。
ただ胸の奥が熱くて、力を入れていないと嗚咽が漏れてしまいそうだった。
「まだ始まる前なのにお化粧が落ちてしまうわよ」
「あ、は……い。すみませ……」
手では拭いきれない涙に、侍女がヴェーシュにハンカチを手渡す。
涙を拭ってくれるのに甘えながら、シオンは必死に呼吸を整えた。
「シオンがこんなに喜んでくれているのに、ヴァイスがまだ来ないのがもどかしいな。計画では今頃、教会で私にエスコートされるシオンをヴァイスが祭壇で待っている段取りだったんだが。全く、思うように行かないな。サプライズというのは難しい」
ネンゲルが肩を竦めると、ヴェーシュは「そうですね」と口に手を当てて笑った。
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