サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
128 / 131
サプライズ

しおりを挟む
「わたくしたちのために、シオンにばかりに不便を強いてしまったから。少しでも喜んでもらいたくて、結婚式を企画したの」

 うふふっ、と悪戯そうな微笑みを浮かべて、ヴェーシュはシオンに歩み寄った。

「結婚式? ああ……」

 だからこんな格好をさせられたのか……。

 純白のドレスは花嫁衣装だったんだ。とすんなり納得しかけて、シオンは叫んだ。

「結婚式って、ひょっとして、私たちのですか!?」

 思わず声が裏返る。

「そうよ、シオンと、ヴァイスの結婚式よ!」

 ヴェーシュは目を輝かせて、シオンの両手を包み込んだ。

 ヴェーシュの瞳は曇りがない。シオンを喜ばせようとしてくれている純粋な想いが全身から溢れていた。

 ”そんな、気を遣って頂かなくても”

 ”ありがとうございます”

 いつもだったら咄嗟に、そんな感謝が口をつくはずだった。

 なのに、一瞬、言葉に迷ってしまう。

 胸がぎゅうっと音を立てるように軋んだ。

 どうしたら良いのか。軽いパニックに陥ったように、シオンは落ち着きなく視線を彷徨わせた。

 周囲には見るともなしに主人らを見守る侍女たちが壁際に沿って待機している。

 手前には、同じく優しい微笑みを湛えるネンゲルが。

 それらの景色がぼやっと滲んで、温かい雫がはらりはらりと頬を滑り落ちる。

「あらあら、シオン。泣かないで」

 ヴェーシュがそっと、指で頬を拭ってくれる。

「あ、りがとうございます。……私なんかのために」

「そんなに喜んでくれるのなら企画した甲斐があったわ。でもね、本当は足りなくて申し訳ないくらいなのよ。シオンがいなければ私の幸せはなかったわ」

 大袈裟な賛辞に首を振ると、もっとポロポロと涙が溢れた。

 正直なところ、嬉しいのかどうか、実感が湧かない。

 けれど涙が溢れているのだから、心が揺さぶられているには違いない。

「私もだ、シオン。愛するヴェーシュを手に入れても、幸福とは程遠かった。本来ならばヴァイスとシオンの結婚式はもっと盛大に催すべき祝典だ。内々のもので済まないが、気負わずに受け取って欲しい」

 どうしてこんなに涙が出るのだろう。知らずのうちに結婚式に憧れていたのか。

 期待などしていなかったはずなのに、心のどこかで寂しく思っていたのか。

 この感覚を的確に表現する言葉が見つからない。

 ただ胸の奥が熱くて、力を入れていないと嗚咽が漏れてしまいそうだった。

「まだ始まる前なのにお化粧が落ちてしまうわよ」

「あ、は……い。すみませ……」

 手では拭いきれない涙に、侍女がヴェーシュにハンカチを手渡す。

 涙を拭ってくれるのに甘えながら、シオンは必死に呼吸を整えた。

「シオンがこんなに喜んでくれているのに、ヴァイスがまだ来ないのがもどかしいな。計画では今頃、教会で私にエスコートされるシオンをヴァイスが祭壇で待っている段取りだったんだが。全く、思うように行かないな。サプライズというのは難しい」

 ネンゲルが肩を竦めると、ヴェーシュは「そうですね」と口に手を当てて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

処理中です...