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サプライズ
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ヴェーシュはシオンを手放しで褒めてくれたが、とんでもない。
ヴェーシュのほうがよほど、美しい。
身体にピッタリと沿うオレンジのマーメイドラインのドレスはデザイン自体がシンプルだったが、足元にかけてのグラデーションが秀逸だ。
透けたレース生地が幾重も折り重なって、床を泳ぐ度にキラキラと光を放つ。
胸には真珠で花と蔦の意匠をあしらったブローチが留められ、耳元にはエメラルドの大振りなピアスが光る。
優雅に結い上げたブロンドに、花を模した髪飾りをつけている。
天使のような愛らしさに当てられ、毒気も疑心もゴッソリと抜かれる。
事情も説明せずにどんな扱いだ、と憤っていたのに、この笑顔を守るためなら飲み込んでしまおうかと迷う。
美人って得だなぁと痛感せずにいられない。
「ヴェーシュ様? ご無沙汰しております。あの、これはいったい……」
「嫌だわ。そんな他人行儀な話し方はよして。貴女とわたくしは姉妹なのよ。ぜひお姉様と呼んで」
控えめなシオンの問いに、ヴェーシュは直接の回答をしてくれない。
ただ、益々魅力的になった笑顔を浮かべていた。
ネンゲルとは本当に上手くいっているらしい。全身から幸せのオーラが立ち昇っている。
「じゃあ、お、お姉様……これは、どういうことなんでしょうか? いきなり着替えさせられて、私、びっくりしてるんですけど」
言葉を選んでいるのもあるが、自分でもよくわかっていないので、曖昧な言葉しか出ない。
「うふふっ、だってサプライズだもの。種明かしはまだ先にさせて」
ヴェーシュは社交界も百戦錬磨の猛者だから、本心かどうかは相当に根気よく観察しなければ判断できない。
けれど、無邪気で楽しげな様子は嘘をついているようには見えず、シオンの胸中は複雑だった。
するとそこへ、新たな登場人物が現れる。
音もなく開いた扉の横を、申し訳程度にコンコンとノックするその人は、この国の王太子殿下にしてヴェーシュの夫、ネンゲルだった。
「ヴェーシュの提案通りにさせてあげたいところだったんだけどね、そうも行かなくなってしまったよ」
ネンゲルはため息をつきながら、室内へと歩みを進める。
「やあ、久しぶりだね、シオン。その節は大変な苦労をかけて悪かったね。変わらずシュニー城に留まってくれてありがとう」
彼は部屋の中央で立ち止まると、シオンに向き直り、頭を下げた。
「えっ、止めてください! 王子様がそんなことしたら」
「いいや、私が今こうしてヴェーシュと睦まじく過ごせるのも、シオンのお陰だ。きちんと礼もできないまま時が過ぎてしまったから、せめてこうして感謝したい」
シオンが慌てても意に介さない。それどころかネンゲルは寄り添ったヴェーシュと並びたち、改めて頭を下げる。
一国の王太子夫妻に頭を下げさせては、じっとしていられない。
ヴェーシュのほうがよほど、美しい。
身体にピッタリと沿うオレンジのマーメイドラインのドレスはデザイン自体がシンプルだったが、足元にかけてのグラデーションが秀逸だ。
透けたレース生地が幾重も折り重なって、床を泳ぐ度にキラキラと光を放つ。
胸には真珠で花と蔦の意匠をあしらったブローチが留められ、耳元にはエメラルドの大振りなピアスが光る。
優雅に結い上げたブロンドに、花を模した髪飾りをつけている。
天使のような愛らしさに当てられ、毒気も疑心もゴッソリと抜かれる。
事情も説明せずにどんな扱いだ、と憤っていたのに、この笑顔を守るためなら飲み込んでしまおうかと迷う。
美人って得だなぁと痛感せずにいられない。
「ヴェーシュ様? ご無沙汰しております。あの、これはいったい……」
「嫌だわ。そんな他人行儀な話し方はよして。貴女とわたくしは姉妹なのよ。ぜひお姉様と呼んで」
控えめなシオンの問いに、ヴェーシュは直接の回答をしてくれない。
ただ、益々魅力的になった笑顔を浮かべていた。
ネンゲルとは本当に上手くいっているらしい。全身から幸せのオーラが立ち昇っている。
「じゃあ、お、お姉様……これは、どういうことなんでしょうか? いきなり着替えさせられて、私、びっくりしてるんですけど」
言葉を選んでいるのもあるが、自分でもよくわかっていないので、曖昧な言葉しか出ない。
「うふふっ、だってサプライズだもの。種明かしはまだ先にさせて」
ヴェーシュは社交界も百戦錬磨の猛者だから、本心かどうかは相当に根気よく観察しなければ判断できない。
けれど、無邪気で楽しげな様子は嘘をついているようには見えず、シオンの胸中は複雑だった。
するとそこへ、新たな登場人物が現れる。
音もなく開いた扉の横を、申し訳程度にコンコンとノックするその人は、この国の王太子殿下にしてヴェーシュの夫、ネンゲルだった。
「ヴェーシュの提案通りにさせてあげたいところだったんだけどね、そうも行かなくなってしまったよ」
ネンゲルはため息をつきながら、室内へと歩みを進める。
「やあ、久しぶりだね、シオン。その節は大変な苦労をかけて悪かったね。変わらずシュニー城に留まってくれてありがとう」
彼は部屋の中央で立ち止まると、シオンに向き直り、頭を下げた。
「えっ、止めてください! 王子様がそんなことしたら」
「いいや、私が今こうしてヴェーシュと睦まじく過ごせるのも、シオンのお陰だ。きちんと礼もできないまま時が過ぎてしまったから、せめてこうして感謝したい」
シオンが慌てても意に介さない。それどころかネンゲルは寄り添ったヴェーシュと並びたち、改めて頭を下げる。
一国の王太子夫妻に頭を下げさせては、じっとしていられない。
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