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初デート
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会計などの手続きなどは、シオンがカーテンの向こうにいるうちに済ませてくれたらしい。
そうして怒涛のように衣装を購入したシオンたちだったが、それほど急いでも店舗を出た時には3時間以上の時が過ぎていた。
「では、私はここで失礼しますので、この後はお二人でごゆっくりお楽しみください」
到着時と同じく、店舗の前に停車する馬車に向かって、ベッキーはにこやかに手を振った。
「貴女だってお昼を食べていないでしょ? 一緒に行きましょうよ」
当然ベッキーも一緒に乗車するものだと思っていたシオンは、無作法にもステップに足をかけたまま振り返った。
「いいえ。初めから私はお召し物を注文するところまでご一緒する予定でしたので。昼食の費用も特別に大公様からいただいておりますので、私は私で適当なお店に行きます。街でランチなんて機会滅多にありませんから、とっても楽しみにしていたんです」
ニコニコ笑顔と留まる態度を崩さないベッキーを前に、シオンはヴァイスに目を移した。
ヴァイスはエスコートに手を差し出したままで、今はしれっとしたいつもの無表情に戻っている。
いつの間にかしっかりと段取りがなされていたようだ。
「では、また後で」
ヴァイスは澄まし顔でベッキーに別れを告げると、シオンに乗車を促した。
「もう、お昼くらい一緒に食べたっていいでしょうに」
「俺は2人きりの食事を楽しみにしていた。シオンは俺とデートをしたくないのか?」
馬車に乗り込んでからも、まだ納得いかない様子のシオンにヴァイスは不服そうに訴える。
「そっ……それとこれとは、違うでしょ。私も、その……デートは、したい、というか」
主張しながら、シオンはまごついた。
嘘はつけない。ベッキーには悪いと思っても、2人でデートをしてみたいと思ったのは本音だ。
しかし、朝からずっと付き添ってくれたのに、空腹のまま放り出すのは気が引けた。
「ならいいだろう? 多少早まっただけだ。それに」
ヴァイスは向かい合って座った位置から、腰を上げずいっとシオンに顔を近づける。
客車の窓枠に壁ドンするような体勢で、ちゅっと唇を掠め取られた。
「ベッキーの前では、許してくれないだろう?」
「~~~!!」
シオンは不意打ちのキスに赤面して、声にならない悲鳴を上げた。
ナニ、この人。こんなキャラだったっけ!?
びっくりするのと同時に、胸が勝手にときめいた。
2人でイチャイチャしたいから、ベッキーと別行動にした。
と言外に語っているみたいだ。
しかも、それを一切表情に出さずに、普通の顔で伝えてくる。
今までのヴァイスでは考えられない、ちょっとした策士みたいだ。
それとも、計算なしの天然な言動なんだろうか??
疑わしい目で、穴が開くほど見つめていたら、すぐに馬車は停車した。
「着いたようだ。降りよう。一般的な店だから少し歩くが、いいか?」
真偽を確かめたくて。また、一般的なお店とはどんな? との疑問が頭に浮かぶ。
開いたドアの外の景色と照らし合わせて、ああ、馬車停めのない、小道に面した店舗なんだと納得した。
そうして怒涛のように衣装を購入したシオンたちだったが、それほど急いでも店舗を出た時には3時間以上の時が過ぎていた。
「では、私はここで失礼しますので、この後はお二人でごゆっくりお楽しみください」
到着時と同じく、店舗の前に停車する馬車に向かって、ベッキーはにこやかに手を振った。
「貴女だってお昼を食べていないでしょ? 一緒に行きましょうよ」
当然ベッキーも一緒に乗車するものだと思っていたシオンは、無作法にもステップに足をかけたまま振り返った。
「いいえ。初めから私はお召し物を注文するところまでご一緒する予定でしたので。昼食の費用も特別に大公様からいただいておりますので、私は私で適当なお店に行きます。街でランチなんて機会滅多にありませんから、とっても楽しみにしていたんです」
ニコニコ笑顔と留まる態度を崩さないベッキーを前に、シオンはヴァイスに目を移した。
ヴァイスはエスコートに手を差し出したままで、今はしれっとしたいつもの無表情に戻っている。
いつの間にかしっかりと段取りがなされていたようだ。
「では、また後で」
ヴァイスは澄まし顔でベッキーに別れを告げると、シオンに乗車を促した。
「もう、お昼くらい一緒に食べたっていいでしょうに」
「俺は2人きりの食事を楽しみにしていた。シオンは俺とデートをしたくないのか?」
馬車に乗り込んでからも、まだ納得いかない様子のシオンにヴァイスは不服そうに訴える。
「そっ……それとこれとは、違うでしょ。私も、その……デートは、したい、というか」
主張しながら、シオンはまごついた。
嘘はつけない。ベッキーには悪いと思っても、2人でデートをしてみたいと思ったのは本音だ。
しかし、朝からずっと付き添ってくれたのに、空腹のまま放り出すのは気が引けた。
「ならいいだろう? 多少早まっただけだ。それに」
ヴァイスは向かい合って座った位置から、腰を上げずいっとシオンに顔を近づける。
客車の窓枠に壁ドンするような体勢で、ちゅっと唇を掠め取られた。
「ベッキーの前では、許してくれないだろう?」
「~~~!!」
シオンは不意打ちのキスに赤面して、声にならない悲鳴を上げた。
ナニ、この人。こんなキャラだったっけ!?
びっくりするのと同時に、胸が勝手にときめいた。
2人でイチャイチャしたいから、ベッキーと別行動にした。
と言外に語っているみたいだ。
しかも、それを一切表情に出さずに、普通の顔で伝えてくる。
今までのヴァイスでは考えられない、ちょっとした策士みたいだ。
それとも、計算なしの天然な言動なんだろうか??
疑わしい目で、穴が開くほど見つめていたら、すぐに馬車は停車した。
「着いたようだ。降りよう。一般的な店だから少し歩くが、いいか?」
真偽を確かめたくて。また、一般的なお店とはどんな? との疑問が頭に浮かぶ。
開いたドアの外の景色と照らし合わせて、ああ、馬車停めのない、小道に面した店舗なんだと納得した。
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