113 / 131
おあずけ
10
しおりを挟む
「……それが良さそうね。ヴァイス、協力をお願いできる?」
伺うように目を上げれば、ヴァイスは嬉しそうに目を輝かせた。
「勿論だ。俺にできることなら何でも」
手をとって、非常に頼もしく意気込んでくれる。
まるで火の中でも水の中でも飛び込んでくれそうな勢いだ。
「ありがとう。でも、カタログの中から条件に合うものを抽出してくれるだけでいいのよ」
独特なヴァイスの愛情表現に慣れつつある自分を感じつつ、シオンは自分の希望を述べた。
とはいえ、ヴァイスを独特と感じるシオンだって、もう随分と感化されている。
ドレス選びを条件付けで抽出するなんて、完全なる効率厨だ。
「さすが大公閣下。奥方様への愛情が格別に深くいらっしゃるのですね」
ミハイルはこの地の領主にして大口の顧客を満足させるべく、大仰に頷いてみせた。
そっと、2冊目のカタログの表紙を開いて差し出す。
エルメロイ店のスタッフ2名は、この上客たちの異質さを正しく認識し、また自分たちの上司がいかに有能かを改めて思い知った。
この地位まで上り詰めるには相応の能力が求められると、恐れ慄いていた。
***
徹底した流れ作業が功を奏し、シオンはどうにか20着の衣装のオーダーを終えた。
主軸に据えた条件は、ヴァイスと並んで立った時のシルエットだ。
そうなればパターンは一気に絞られる。
カタログに掲載されているドレスの総数は188点で、うち43点が該当した。
生地の質や裁断の方法、縫製の仕方などの違いから、すべてのドレスが同じラインというわけでもない。
マーメイドやAライン、エンパイアスタイルなど……、バランスよく取り入れた。
手持ちの服に寒色系統のものが多かったため、暖色系の色味を追加した。
ただし夜会用のドレスはやはりブルーが基調だ。
理由は言わずもがなで、ヴァイスの瞳の色だ。
パートナーが互いのイメージカラーを纏うことで、互いの絆を表現できる。
あれやこれやと悩むくらいなら、その組み合わせが1番手っ取り早い。
しかし、周囲は各々で予想外の反応を見せていた。
「こんなに……俺の色ばかりを選んでくれるとは。生きていてよかった。これからもシオンの夫に相応しくあるよう、夫と領主の務めを見事に果たしてみせるぞ」
カーテンの向こう側から聞こえる、噛み締めるようなヴァイスの呟きに、シオンは内心でひぃっと悲鳴を上げた。
「職業柄、たくさんのご夫婦を存じておりますが、奥様ほど愛情深い御婦人にはお目にかかったことがありません」
「それは当然です。奥様は大公様の女神様ですもの」
何も持たないシオンが服をーーしかも、いかにも高価そうなドレスを20着もーー用立てて貰うのに。
こちらが感謝こそすれ、ヴァイスに感動される謂れがない。
ミハイルとベッキーも、いかにもと行った風情でヴァイスに同調している。
選んだ色ごときで、そんなに喜んでくれるとは。
(そんなに喜んでくれるなら、全部同じ色だって構わないのに……)
なんやかやと前置きしても、結局2人は付き合いたてのようなものだ。
シオンも自分にベタ惚れなヴァイスが愛しくてしょうがない。
オーダーと採寸を終えたシオンは、恐縮しながらも、ほんのりと高揚した気持ちで試着室から顔を出す。
伺うように目を上げれば、ヴァイスは嬉しそうに目を輝かせた。
「勿論だ。俺にできることなら何でも」
手をとって、非常に頼もしく意気込んでくれる。
まるで火の中でも水の中でも飛び込んでくれそうな勢いだ。
「ありがとう。でも、カタログの中から条件に合うものを抽出してくれるだけでいいのよ」
独特なヴァイスの愛情表現に慣れつつある自分を感じつつ、シオンは自分の希望を述べた。
とはいえ、ヴァイスを独特と感じるシオンだって、もう随分と感化されている。
ドレス選びを条件付けで抽出するなんて、完全なる効率厨だ。
「さすが大公閣下。奥方様への愛情が格別に深くいらっしゃるのですね」
ミハイルはこの地の領主にして大口の顧客を満足させるべく、大仰に頷いてみせた。
そっと、2冊目のカタログの表紙を開いて差し出す。
エルメロイ店のスタッフ2名は、この上客たちの異質さを正しく認識し、また自分たちの上司がいかに有能かを改めて思い知った。
この地位まで上り詰めるには相応の能力が求められると、恐れ慄いていた。
***
徹底した流れ作業が功を奏し、シオンはどうにか20着の衣装のオーダーを終えた。
主軸に据えた条件は、ヴァイスと並んで立った時のシルエットだ。
そうなればパターンは一気に絞られる。
カタログに掲載されているドレスの総数は188点で、うち43点が該当した。
生地の質や裁断の方法、縫製の仕方などの違いから、すべてのドレスが同じラインというわけでもない。
マーメイドやAライン、エンパイアスタイルなど……、バランスよく取り入れた。
手持ちの服に寒色系統のものが多かったため、暖色系の色味を追加した。
ただし夜会用のドレスはやはりブルーが基調だ。
理由は言わずもがなで、ヴァイスの瞳の色だ。
パートナーが互いのイメージカラーを纏うことで、互いの絆を表現できる。
あれやこれやと悩むくらいなら、その組み合わせが1番手っ取り早い。
しかし、周囲は各々で予想外の反応を見せていた。
「こんなに……俺の色ばかりを選んでくれるとは。生きていてよかった。これからもシオンの夫に相応しくあるよう、夫と領主の務めを見事に果たしてみせるぞ」
カーテンの向こう側から聞こえる、噛み締めるようなヴァイスの呟きに、シオンは内心でひぃっと悲鳴を上げた。
「職業柄、たくさんのご夫婦を存じておりますが、奥様ほど愛情深い御婦人にはお目にかかったことがありません」
「それは当然です。奥様は大公様の女神様ですもの」
何も持たないシオンが服をーーしかも、いかにも高価そうなドレスを20着もーー用立てて貰うのに。
こちらが感謝こそすれ、ヴァイスに感動される謂れがない。
ミハイルとベッキーも、いかにもと行った風情でヴァイスに同調している。
選んだ色ごときで、そんなに喜んでくれるとは。
(そんなに喜んでくれるなら、全部同じ色だって構わないのに……)
なんやかやと前置きしても、結局2人は付き合いたてのようなものだ。
シオンも自分にベタ惚れなヴァイスが愛しくてしょうがない。
オーダーと採寸を終えたシオンは、恐縮しながらも、ほんのりと高揚した気持ちで試着室から顔を出す。
111
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる