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おあずけ

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「……それが良さそうね。ヴァイス、協力をお願いできる?」

 伺うように目を上げれば、ヴァイスは嬉しそうに目を輝かせた。

「勿論だ。俺にできることなら何でも」

 手をとって、非常に頼もしく意気込んでくれる。

 まるで火の中でも水の中でも飛び込んでくれそうな勢いだ。

「ありがとう。でも、カタログの中から条件に合うものを抽出してくれるだけでいいのよ」

 独特なヴァイスの愛情表現に慣れつつある自分を感じつつ、シオンは自分の希望を述べた。

 とはいえ、ヴァイスを独特と感じるシオンだって、もう随分と感化されている。

 ドレス選びを条件付けで抽出するなんて、完全なる効率厨だ。

「さすが大公閣下。奥方様への愛情が格別に深くいらっしゃるのですね」

 ミハイルはこの地の領主にして大口の顧客を満足させるべく、大仰に頷いてみせた。

 そっと、2冊目のカタログの表紙を開いて差し出す。

 エルメロイ店のスタッフ2名は、この上客たちの異質さを正しく認識し、また自分たちの上司がいかに有能かを改めて思い知った。

 この地位まで上り詰めるには相応の能力が求められると、恐れ慄いていた。





 ***





 徹底した流れ作業が功を奏し、シオンはどうにか20着の衣装のオーダーを終えた。

 主軸に据えた条件は、ヴァイスと並んで立った時のシルエットだ。

 そうなればパターンは一気に絞られる。

 カタログに掲載されているドレスの総数は188点で、うち43点が該当した。

 生地の質や裁断の方法、縫製の仕方などの違いから、すべてのドレスが同じラインというわけでもない。

 マーメイドやAライン、エンパイアスタイルなど……、バランスよく取り入れた。

 手持ちの服に寒色系統のものが多かったため、暖色系の色味を追加した。

 ただし夜会用のドレスはやはりブルーが基調だ。

 理由は言わずもがなで、ヴァイスの瞳の色だ。

 パートナーが互いのイメージカラーを纏うことで、互いの絆を表現できる。

 あれやこれやと悩むくらいなら、その組み合わせが1番手っ取り早い。

 しかし、周囲は各々で予想外の反応を見せていた。

「こんなに……俺の色ばかりを選んでくれるとは。生きていてよかった。これからもシオンの夫に相応しくあるよう、夫と領主の務めを見事に果たしてみせるぞ」

 カーテンの向こう側から聞こえる、噛み締めるようなヴァイスの呟きに、シオンは内心でひぃっと悲鳴を上げた。

「職業柄、たくさんのご夫婦を存じておりますが、奥様ほど愛情深い御婦人にはお目にかかったことがありません」

「それは当然です。奥様は大公様の女神様ですもの」

 何も持たないシオンが服をーーしかも、いかにも高価そうなドレスを20着もーー用立てて貰うのに。

 こちらが感謝こそすれ、ヴァイスに感動される謂れがない。

 ミハイルとベッキーも、いかにもと行った風情でヴァイスに同調している。

 選んだ色ごときで、そんなに喜んでくれるとは。

(そんなに喜んでくれるなら、全部同じ色だって構わないのに……)

 なんやかやと前置きしても、結局2人は付き合いたてのようなものだ。

 シオンも自分にベタ惚れなヴァイスが愛しくてしょうがない。

 オーダーと採寸を終えたシオンは、恐縮しながらも、ほんのりと高揚した気持ちで試着室から顔を出す。
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