サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

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おあずけ

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「この辺りは元々、ミッケン伯の荘園だった。伯が脱税で告発されて国領となり、それを譲り受けた。城は一部は廃城を転移させ、再生と増築をしている。街も初めの頃は俺も手を入れた。最近では各々に任せきりだが」

 領主自ら。とシオンは驚嘆する。

 でも、できるんなら、それもそうか。

「本当になんでもできちゃうのね。スーパーマンだわ! でもそれじゃあ余計に私の買い物なんて付き合ってる場合じゃないよね? ヴァイスのしたいことすればいいのに」

「スーパーマンとは何だ? それに俺は正直、今は仕事より、1秒でも長くシオンといたい。だから買い物も、俺のしたいことだ」

「えっ。スーパーマンていうのはね、正義の味方よ。何でもできて、困っている人を助けてくれる市民のヒーローで……」

 ストレートに好意を伝えられ、気恥ずかしい。

 すかさず肝心なところから話題を逸らして、シオンは赤面した。

「あらあ奥様ってば、素直じゃありませんね。必要なお買い物が済んだら、私はお先にお暇しますから、そのあとは心ゆくまで2人きりでお過ごしください」

 バチッ、と音がしそうなほど、ベッキーがウインクを決める。

「な……べっ別に……」

「夫婦になっても街でデートだなんて、素敵ですよねぇ。大公様は今までひたすらクールでストイックな印象でしたが、こんなに甘々でロマンチックな旦那様になるとは。城仕えを始めた頃は知りませんでした。街の人もこんな大公様の姿を知ったら、さぞ驚くでしょうねぇ」

「……デート。デートか。聞いたことがあるぞ。これが世で言うデートというものか」

「大公閣下、もしや今回が初デートですか? 今まではお忍びでしていたなどではなく?」

「お忍びとは何だ? 2人でこっそり何処かの宝物庫に忍び込むのか?」

「そうではありません。例えば大公閣下でしたら人里離れた森や、山奥の湖のほとりで愛を囁きあったり、または仮面を被り素顔を隠して夜会で踊り明かしたり。お忍びとは身分を隠して過ごすことですよ」

「なるほど。それも一興だな。早速、計画しよう」

 ヴァイスの素直な反応に、驚きながらもベッキーは「是非」と頷く。

 シオンにとっては照れ臭い展開なのに、2人ともシオンの羞恥など顧みようとはしない。

 止めても無駄かと、シオンは諦めることにした。

 そうこうしているうちに、馬車は目的地に到着したようだ。

 僅かに車輪を軋ませ、ゆっくりと停止する。

「この店に入るのか?」

 ベッキーが頷くと、ヴァイスが先に降り立った。シオンに手を差し伸べる。

 女性扱いに慣れていないシオンは、躊躇いながらその手を取った。

 目的地と思しき店舗は、界隈でも一際大きな建物だ。店の上部に掲げられている看板には「エルメロイ・アンド・メルリヌス」の文字がある。

 店頭は通りに面したガラス張りで、ショーウインドーには今流行と思しきドレスや宝飾品が整然と並んでいる。

 更に目を移すと、ガラスドアの前には既に複数のスタッフが控えていた。
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