サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

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家族

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(ここは、夢の中よ。外に、出ないと。早く、目覚めなくちゃ)

 リラを自分の子だと主張する、この男は夢魔だ。

 対象にとって、最も望ましい姿で現れ誘惑する魔物。

 説明の付かなかった全ての事象が、この男の存在で全部解決する。

 コイツのせいで、今回の不可解な事件が引き起こされた。

「愛しい人、焦らさないで、早く聞かせて。愛していると」

「わ、たし……は、ヴァイスを」

 唇を戦慄かせ、シオンは喘いだ。

 呼吸も、拒絶も、まともにできない。

 わかっているのに、抗えない。

(どうして……! ここは、夢魔の領域テリトリーだから……!?)

 罵倒して拒絶してやりたいのに、唇が勝手に”その言葉”の形に動こうとする。

 どうにか回避しようと、シオンは唇を噛んで堪えた。

「っ!!」

 強く噛み締めたせいで、鉄錆の味が口内に広がった。

 口の端から、生暖かいものが垂れる。

「おやおや。愛らしい唇を傷つけて、いけない子だ。でも……とってもそそられる香。いいんだよね? 君が自らそうしたんだから。頂くよ?」

 ヴァイスの形を模した夢魔は、シオンの顎を掴んで上向かせる。

 触れられたくないのに、嫌なのに、何故なのか。

 いつしか見た、蕩けるような微笑みを向けられて、強制的に胸が高鳴った。

 拳を振いたくても、魔術を練りたくても指一本動かない。

 近づいてくる白皙の美貌を、見たくなくても顔を逸らせない。

 瞼が落とせたのは、せめてもの救いだ。

 ぎゅっと目を瞑ると、顎の先から滴る血の雫を、べろりと舐められた。

 夢魔は、人間の男性から精を奪い、女性に種を植え付けて子を生ませる。

 このままシオンも、誰とも知れぬ男性の子を身籠るのだろうか?

(そんなのいやっ!! 助けて! ヴァイス……!!!)

 目の前に、その姿があるにもかかわらず、シオンは地上にいるであろう本人に助けを求めていた。

 望めば傍にいてくれたのに、自ら拒絶した。

 知らぬこととはいえ、真心を疑い、罵った。

 予定通り、ヴァイスが同行していれば、状況は全く違っていただろう。

 それなのに今更助けを求めるなんて、都合が良すぎる。

 けれど、でもーー。

 後悔と無力感、恐怖で目尻から一筋の涙が流れた。

 その瞬間。

 眼裏で閃光が弾けた。



 ーーパリィィン!!



「グワァアアアッ!」

 頭上でガラスが砕けたような音が響いて、全身のいましめが解けた。

 ふっと身体が軽くなり、前方へよろめいた。

「無事か、シオン!?」

 すぐに温かい何かに抱き止められて、瞼を開ける。

 すると、傾眠の世界にあった光景は姿を消し、ヘドロの川と汚臭に囲まれた現実に戻っていた。

 何もかも、元通りだ。

 ただ、目の前には額を抑えて悶絶する魔物と、それを阻むようにして立つ、銀髪の青年の姿があった。
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