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異変
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「シュニー夫人はお帰りになられたのですか?」
「もう少しお話しをしたかったのに、残念ですわ」
聞きつけた夫人たちから話が広がり、目を輝かせたシャルロットが、こちらへ駆け寄って来た。
「ネンゲル殿下、ご機嫌麗しゅうございます。ヴァイス様、先日はすみませんでした。私、あの後家に帰ってとても反省しましたの。私、本当に浅はかだったと反省してます。改めてお詫びを。どうか、お許しくださいませ」
シャルロットは、ソツなく礼をとった後、ヴァイスに詫びる。
「あれはもう、済んだ話だ」
ヴァイスは素っ気なく告げてから、ネンゲルに目をやった。
この場にシオンがいないのは明らかだが、理由が解せない。
ヴァイスたちの来訪を察知して、シオンがヴェーシュに口裏合わせを依頼した可能性もゼロではない。
しかし、確率としてはかなり低い。
「長く席を外してしまってごめんなさい。主役も帰ってしまいましたし、今日はそろそろお開きにしましょうか」
「先ほど3時の鐘が鳴っていましたものね。楽しい時間はあっという間ですわね」
「ささやかですけれど、お土産を用意しましたの。どうぞ持ち帰って召し上がって」
「まあ、ありがとうございます。皆喜びますわ」
土産の話題が持ち上がり、招待客は自然と会の終了を悟る。
ホストが終了を仄めかしたら、従うのが暗黙のマナーだ。
ネンゲルはそこで振り返り、目が合う。
解散は揺るがないと判断したようだ。
「シオンが席を外したのは、いつ頃だった?」
「そうですね、1時間は経っていないと思いますが……」
こちらから声をかけられるとは思わなかったのだろう。
シャルロットは嬉々として声を上げかけて、チラリと、一瞬だけ視線を走らせた。
「確かな時間は覚えておりませんの。ごめんなさい」
(今、目を向けたのは、義姉上か……?)
「そうか、一足遅かったようだな。では夫人と姪には日を改めてお目にかかるとしよう。それでいいかい?」
その横でネンゲルはヴェーシュに伺いを立てる。
夫であるネンゲルが、本来なら伺いを立てるような案件でないにも関わらずだ。
つまり、何かしらの中心にヴェーシュの存在がある。
ヴァイスはスラックスのポケットに手を入れ、掌に魔力を集めた。
シオンは無理でも、リラの居所なら突き止められる。
だが……
「兄上。リラの魔力が感じられない」
ネンゲルはふと、顔を上げた。
「リラはまだ赤子だから仕方ないんじゃないのか?」
魔力を感知する能力は人それぞれだ。
ネンゲルは魔力を持たないので、意味がよく理解できないようだ。
ヴァイスの魔力感知の精度は異常に高い。
「リラは赤子だが、しっかりとした魔力があった。シオンほどではないがーー」
追跡できないほどではない。
と、続けようとした矢先。
ズズンッ
と地鳴りがして、会場全体が揺れた。
「きゃぁあっ」と誰かが叫んだのを皮切りに、混乱は波のように広がっていく。
「もう少しお話しをしたかったのに、残念ですわ」
聞きつけた夫人たちから話が広がり、目を輝かせたシャルロットが、こちらへ駆け寄って来た。
「ネンゲル殿下、ご機嫌麗しゅうございます。ヴァイス様、先日はすみませんでした。私、あの後家に帰ってとても反省しましたの。私、本当に浅はかだったと反省してます。改めてお詫びを。どうか、お許しくださいませ」
シャルロットは、ソツなく礼をとった後、ヴァイスに詫びる。
「あれはもう、済んだ話だ」
ヴァイスは素っ気なく告げてから、ネンゲルに目をやった。
この場にシオンがいないのは明らかだが、理由が解せない。
ヴァイスたちの来訪を察知して、シオンがヴェーシュに口裏合わせを依頼した可能性もゼロではない。
しかし、確率としてはかなり低い。
「長く席を外してしまってごめんなさい。主役も帰ってしまいましたし、今日はそろそろお開きにしましょうか」
「先ほど3時の鐘が鳴っていましたものね。楽しい時間はあっという間ですわね」
「ささやかですけれど、お土産を用意しましたの。どうぞ持ち帰って召し上がって」
「まあ、ありがとうございます。皆喜びますわ」
土産の話題が持ち上がり、招待客は自然と会の終了を悟る。
ホストが終了を仄めかしたら、従うのが暗黙のマナーだ。
ネンゲルはそこで振り返り、目が合う。
解散は揺るがないと判断したようだ。
「シオンが席を外したのは、いつ頃だった?」
「そうですね、1時間は経っていないと思いますが……」
こちらから声をかけられるとは思わなかったのだろう。
シャルロットは嬉々として声を上げかけて、チラリと、一瞬だけ視線を走らせた。
「確かな時間は覚えておりませんの。ごめんなさい」
(今、目を向けたのは、義姉上か……?)
「そうか、一足遅かったようだな。では夫人と姪には日を改めてお目にかかるとしよう。それでいいかい?」
その横でネンゲルはヴェーシュに伺いを立てる。
夫であるネンゲルが、本来なら伺いを立てるような案件でないにも関わらずだ。
つまり、何かしらの中心にヴェーシュの存在がある。
ヴァイスはスラックスのポケットに手を入れ、掌に魔力を集めた。
シオンは無理でも、リラの居所なら突き止められる。
だが……
「兄上。リラの魔力が感じられない」
ネンゲルはふと、顔を上げた。
「リラはまだ赤子だから仕方ないんじゃないのか?」
魔力を感知する能力は人それぞれだ。
ネンゲルは魔力を持たないので、意味がよく理解できないようだ。
ヴァイスの魔力感知の精度は異常に高い。
「リラは赤子だが、しっかりとした魔力があった。シオンほどではないがーー」
追跡できないほどではない。
と、続けようとした矢先。
ズズンッ
と地鳴りがして、会場全体が揺れた。
「きゃぁあっ」と誰かが叫んだのを皮切りに、混乱は波のように広がっていく。
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