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お茶会
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広さも、個人の私室にすれば充分ではあるが、シュニー城のシオンの部屋より一回り以上小さい。
(まあ、離れだし……こんなものかしら。最近シュニー城に慣れすぎて、感覚がおかしくなっているのかも)
郊外のシュニー領と王都では勝手が違っていて何ら不思議はない。
ヴェーシュはつと立ち上がる。
見守っているとそのまま部屋の端に設置されたワゴンへと歩み寄り、香炉に火を入れた。
微かに甘いローズの香りが漂う。
「ごめんなさいね、強引に連れ出して。実は私一度、シオンと2人でお話したいなと思っていて、機会を待っていたの。少し時間をもらっても良いかしら? ちょっと人前では話し難い内容だったものだから……」
「え? 何でしょう。私でよければ」
優雅に微笑むヴェーシュに、シオンは曖昧に頷いた。
耳目を憚るお話とは何だろう。シオンは改まってヴェーシュに向かい合わせに座り直す。
「2人の馴れ初めを聞きたいの。シオンは元の世界から突然ヴァイスに召喚されたんでしょう? どうして恋に落ちたの? すぐにリラを授かったのよね?」
ぐふっ。
一番の急所をピンポイントで突かれ、シオンは呻きそうになるのを必死で堪えた。
2人の出会いの時期ばかりは、どうにもいじれない。
シオンがエルデガリアに召喚された時期を早くに設定すればするほど、どこに潜伏していたのかと更なる偽装が必要になる。
しかして、人が妊娠出産をするのには1年弱を要するのだから、それより短くもできない。
そこで口裏合わせのための設定で、召喚は1年前に行われたことにしようと結論づけた。
ヴァイスはあの通りの独自路線男なので、その設定を矛盾の出ない理論的な筋書きだと考えていたようだが、シオンは不満だった。
その設定だと、ヴェーシュの指摘通り、出会ってものの数ヶ月でリラを授かったことになる。
今までそこはかとなくぼやかしていたし、込み入った事情は誰からも追及されなかったのに、ここに来てこんな質問をされるとは。
「それは、その……ヴェーシュ様からしたら、はしたないとお思いになるかもしれませんが、成り行きと言いますか……」
シオンはどう説明しようかと、頭を悩ませながら口篭った。
(まあ、離れだし……こんなものかしら。最近シュニー城に慣れすぎて、感覚がおかしくなっているのかも)
郊外のシュニー領と王都では勝手が違っていて何ら不思議はない。
ヴェーシュはつと立ち上がる。
見守っているとそのまま部屋の端に設置されたワゴンへと歩み寄り、香炉に火を入れた。
微かに甘いローズの香りが漂う。
「ごめんなさいね、強引に連れ出して。実は私一度、シオンと2人でお話したいなと思っていて、機会を待っていたの。少し時間をもらっても良いかしら? ちょっと人前では話し難い内容だったものだから……」
「え? 何でしょう。私でよければ」
優雅に微笑むヴェーシュに、シオンは曖昧に頷いた。
耳目を憚るお話とは何だろう。シオンは改まってヴェーシュに向かい合わせに座り直す。
「2人の馴れ初めを聞きたいの。シオンは元の世界から突然ヴァイスに召喚されたんでしょう? どうして恋に落ちたの? すぐにリラを授かったのよね?」
ぐふっ。
一番の急所をピンポイントで突かれ、シオンは呻きそうになるのを必死で堪えた。
2人の出会いの時期ばかりは、どうにもいじれない。
シオンがエルデガリアに召喚された時期を早くに設定すればするほど、どこに潜伏していたのかと更なる偽装が必要になる。
しかして、人が妊娠出産をするのには1年弱を要するのだから、それより短くもできない。
そこで口裏合わせのための設定で、召喚は1年前に行われたことにしようと結論づけた。
ヴァイスはあの通りの独自路線男なので、その設定を矛盾の出ない理論的な筋書きだと考えていたようだが、シオンは不満だった。
その設定だと、ヴェーシュの指摘通り、出会ってものの数ヶ月でリラを授かったことになる。
今までそこはかとなくぼやかしていたし、込み入った事情は誰からも追及されなかったのに、ここに来てこんな質問をされるとは。
「それは、その……ヴェーシュ様からしたら、はしたないとお思いになるかもしれませんが、成り行きと言いますか……」
シオンはどう説明しようかと、頭を悩ませながら口篭った。
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