サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

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お茶会

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「別腹とは? シオ……」

「来ないで!」

 シオンの雰囲気がいつもと違うと気づいていても、言葉の意味まで読めない。

 ヴァイスが身を乗り出すと、シオンは手近にあった枕を投げつけた。

 肩口に当たって弾かれた枕が、ボフッと床に落ちる。

「うぇぇ~ふぇっ、うぇっ」

 不穏な空気を察してか、単に大声に驚いたのか、リラが泣き出した。

「あ、リラ……ごめん、ごめんね」

 シオンは枕の落ちた場所に視線を落とし、慌てて寝台を降りた。

 枕を拾う左手の甲に、ぽたりと雫が落ちる。

「シオン、どうした? 手でも痛めたか?」

「違うの。これは……私、リラのお世話するから、自分の寝室に行くわ」

「行かないでくれ。泣くほど辛いならリラの世話は俺がする」

「いらない! 自分でするし、泣いてない。貴方が教えてくれた通りにできるわ。だから、ついてこないで」」

 シオンは顔を伏せたまま、サッとリラを抱き上げて右奥の寝室に引き上げてしまった。

 すぐに追おうとしたが、見えざる錘に固定されていて足が動かない。

 制約の発動に、今度は本心から拒否しているのだとわかった。

「シオン、済まない。だが、俺は……」

 初めての完全な拒絶を受けて、ヴァイスは呆然と立ち尽くした。

 俺はシオンを、傷つけたのだろうか。

 許可を得ずに唇を奪い、泣かせたのだから、罪過は明白だ。

 けれど……解せない。

 シオンが何を怒っているのか。何故泣いているのか。

 出会ってから一連の流れまで思い返しても、どうにも道理にかなわない。

 それもこれも理解力が足りないせいなのだろうか。

 ヴァイスは自分に問いかけたが、答えは出なかった。



 ***



「……こんなに早く、何の用だ。確か今日は奥方に同行して、ヴェーシュのサロンへ顔を出すのではなかったっけ?」

 そこでヴァイスが頼ったのは、兄であり王太子のネンゲルだ。

 あの後の朝食も、シオンは部屋から出てこなかった。

 トラリオが執りなしてくれたようだが、気持ちは変わらないらしい。

 ヴァイスも強制はできないから、シオンの希むに任せた。

 予定では王城で開催されるヴェーシュの茶会にヴァイスも同行する予定だった。

 ヴァイスがいればリラの粗相を気にする必要もないし、王城には用事もある。

 念の為にとシオンに浄化の魔術を伝授してあったから、ヴァイスがいなくても困らないのだろう。

 ここ3日の魔術指南で、シオンは初心者と思えないほどの魔術を習得した。

 例えば火の魔術なら、どの魔術師も初心者はせいぜい指先に小さな炎が灯る程度だ。

 だが、シオンのそれは火柱が立つほどの火力を有していた。

 シオンは指南するヴァイスを絶賛してくれるので、指導にもつい力が入る。

 魔術の成り立ちから発展まで、興味深く聞き入る姿は熱心な生徒のようでもあり、忌憚ない意見を述べ合う友人のようでもあった。

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