45 / 131
奥様は・・・な魔術師
4
しおりを挟む
昨晩ヴァイスとシオンが寝室を共にしたと、もう周知の事実となっているらしい。
それもまた、嘘の上に成り立つ誤解だ。
次の子を期待されても、シオンにそんな気はさらさらない。
ヴァイスはどんなつもりなのか、今一つ掴めない。
シオンのことは気に入ってくれているようだが、恋人が亡くなってからまだそう時間が経っていない。
辛い気持ちを引き摺って、前を向けないのも問題だ。
しかし、速攻で気持ちを切り替えられても、それはそれで釈然としない。
恋人の立場からしたら軽蔑ものだろうし、同じ女としてもそんな男は嫌いだ。
(ーーいや、違う。嫌いとかそういう問題じゃない! 私はもう、男は懲り懲りなんだから)
ヴァイスの印象は、上向きつつあった。
でもそれは、あくまで契約の上に成り立つ関係においてだ。
「奥様、どうなさいました? お顔が赤いようですが、窓を開けましょうか?」
「ううん、お花っ……楽しみだなぁって。今朝の中庭も綺麗だったし」
いけない。サラに心配をかけてしまった。
シオンは笑みを貼り付けて首を横に振る。
そうこうしているうちに、トラリオが訪れた。
「奥様、ご案内の準備が整いました。お時間よろしいでしょうか?」
時間はきっかり9時だ。
手が空いたらと伝えていたのに、こういうところが、トラリオの几帳面なところだ。
「もう大丈夫よ。セシル、しばらくリラをお願いできる?」
しかし、今回は渡りに船と、トラリオに付いて書庫へ向かった。
書庫は、予想以上の蔵書量だった。
どこかの一室が書庫になっているのだと思ったら、別棟の1棟が丸々書庫となっていた。
フロアは1階から3階まである。
ホールから螺旋状の階段が3階まで伸びており、天井にはステンドグラスが嵌め込まれている。
天から光が降り注ぐような構造だ。
「陽の光は書物を劣化させますので、3階には書物は置いていません。2階と1階に集中して収蔵しています。魔術の関連書は2階に。医学や薬学の専門書など、実用書もこちらに集めてあります」
トラリオに先導されながら螺旋階段を上って行くと、本棚が壁一面に埋め込まれていた。
中には梯子がかかっていて、その上を伝いながら目的の本を探すらしい。
「この辺りの蔵書は坊っちゃまが幼い頃に学ばれた入門書になります。内容は初歩のものから高度なものまでと、左から順に並んでいます。この”初級魔術の基礎、下巻”まで進まれたら、次は分野別となります。分野の順は到達レベルと無関係に並んでいますので、推奨する順序は後ほど坊っちゃま自ら選定なさるとのお話ですので、恐れ入りますがしばしお待ちください」
シオンは目を丸くした。
目で追うと最初からその”基礎の下巻”に辿り着くまでに、厚さ10センチを悠に超える本が12冊並んでいる。
シオンが待つどころか、最後の巻を読破するまで、どれだけヴァイスを待たせるか知れない。
それもまた、嘘の上に成り立つ誤解だ。
次の子を期待されても、シオンにそんな気はさらさらない。
ヴァイスはどんなつもりなのか、今一つ掴めない。
シオンのことは気に入ってくれているようだが、恋人が亡くなってからまだそう時間が経っていない。
辛い気持ちを引き摺って、前を向けないのも問題だ。
しかし、速攻で気持ちを切り替えられても、それはそれで釈然としない。
恋人の立場からしたら軽蔑ものだろうし、同じ女としてもそんな男は嫌いだ。
(ーーいや、違う。嫌いとかそういう問題じゃない! 私はもう、男は懲り懲りなんだから)
ヴァイスの印象は、上向きつつあった。
でもそれは、あくまで契約の上に成り立つ関係においてだ。
「奥様、どうなさいました? お顔が赤いようですが、窓を開けましょうか?」
「ううん、お花っ……楽しみだなぁって。今朝の中庭も綺麗だったし」
いけない。サラに心配をかけてしまった。
シオンは笑みを貼り付けて首を横に振る。
そうこうしているうちに、トラリオが訪れた。
「奥様、ご案内の準備が整いました。お時間よろしいでしょうか?」
時間はきっかり9時だ。
手が空いたらと伝えていたのに、こういうところが、トラリオの几帳面なところだ。
「もう大丈夫よ。セシル、しばらくリラをお願いできる?」
しかし、今回は渡りに船と、トラリオに付いて書庫へ向かった。
書庫は、予想以上の蔵書量だった。
どこかの一室が書庫になっているのだと思ったら、別棟の1棟が丸々書庫となっていた。
フロアは1階から3階まである。
ホールから螺旋状の階段が3階まで伸びており、天井にはステンドグラスが嵌め込まれている。
天から光が降り注ぐような構造だ。
「陽の光は書物を劣化させますので、3階には書物は置いていません。2階と1階に集中して収蔵しています。魔術の関連書は2階に。医学や薬学の専門書など、実用書もこちらに集めてあります」
トラリオに先導されながら螺旋階段を上って行くと、本棚が壁一面に埋め込まれていた。
中には梯子がかかっていて、その上を伝いながら目的の本を探すらしい。
「この辺りの蔵書は坊っちゃまが幼い頃に学ばれた入門書になります。内容は初歩のものから高度なものまでと、左から順に並んでいます。この”初級魔術の基礎、下巻”まで進まれたら、次は分野別となります。分野の順は到達レベルと無関係に並んでいますので、推奨する順序は後ほど坊っちゃま自ら選定なさるとのお話ですので、恐れ入りますがしばしお待ちください」
シオンは目を丸くした。
目で追うと最初からその”基礎の下巻”に辿り着くまでに、厚さ10センチを悠に超える本が12冊並んでいる。
シオンが待つどころか、最後の巻を読破するまで、どれだけヴァイスを待たせるか知れない。
85
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる