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寝室
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「……え? 子が欲しくて?」
「ええ」
シャルロットは目を細めてにこりと微笑む。
「ヴァイス様は特別なお方ですから、どうしても普通の女性とはお心を通わせられないと存じておりました。あの美貌で婚約者も持たず……孤高のお姿も大変麗しかったのですけれど、やはりお世継ぎは必要ですものね」
「そうですね……」
身分制度について詳しくないが、サラの話だとヴァイスはかなり高位の貴族のはずだ。
となれば世継ぎが大事、なのは頷ける。
シャルロットの言を否定する気はないが、どうも釈然としない。
それではまるで、ヴァイスが子を得るためだけに、シオンと結婚したとも取れる言いようだ。
(……まあ、実はその通りなんだけど)
実際には子供が欲しくて、ですらない。
完全な仮初の花嫁になるべくして召喚された。
だから腹を立てる理由などどこにもないはずなのに、シオンは強か胸を抉られた。
まるで「お前は男の愛を得られる女じゃない」とでも言われた気分だった。
あの日、アパートで聡たちに罵られた傷は未だに癒えない。
「それって……私は子供を産むための道具として、妻に迎えられたと仰りたいのですか?」
「いやですわ、ごめんなさい。そこまではっきり申し上げたつもりはないんですけれど、そう聞こえました?」
「へえ」
動揺の大きさゆえに、へんてこりんな相槌が口からこぼれる。
シャルロットはシオンの露わにした不快感に対して、逆に瞳を輝かせた。
「どうか気を悪くなさらないでくださいませ。意に染まぬ相手との結婚なんて、私たち身分のある者にはよくある話ですもの。でも、夫人は恵まれてらっしゃるわ。魔力をお持ちなだけで、あのヴァイス様と結婚なさったのですから」
コロコロと、シャルロットは鈴を転がすような愛らしい声で笑う。
姿だけなら昔遊んだリカちゃん人形のように可憐なのに。
女性特有の、婉曲的な表現に鈍いシオンでも、もうシャルロットの本意が理解できた。
「なるほど。シャルロットさん貴女、ヴァイスにとってこの結婚は決して本意ではない、とおっしゃりたいのね」
シオンは声を上げた。
それで合点が行く。
シャルロットは、シオンが気に入らない。
おおかた今日は、シオンの値踏みに来たのだろう。
ヴァイスの不在時を狙って。
その結果、シャルロットのお眼鏡には適わなかった。
仮令シオンがどれほど非の打ち所がなかったとしても、認めたかどうかは不明だが。
(どうしよう。すっごい嫌な気分……!)
シオンは、はっきりと敵意を込めてシャルロットを見返した。けれど、どうしたらいいかわからない。
誰かを呼んで、この少女を追い出しても良いだろうか。
でも、表向きは結婚の祝いに訪ねてきた客人だ。
下手な振る舞いをして、有る事無い事、後で吹聴されたらたまらない。
「ええ」
シャルロットは目を細めてにこりと微笑む。
「ヴァイス様は特別なお方ですから、どうしても普通の女性とはお心を通わせられないと存じておりました。あの美貌で婚約者も持たず……孤高のお姿も大変麗しかったのですけれど、やはりお世継ぎは必要ですものね」
「そうですね……」
身分制度について詳しくないが、サラの話だとヴァイスはかなり高位の貴族のはずだ。
となれば世継ぎが大事、なのは頷ける。
シャルロットの言を否定する気はないが、どうも釈然としない。
それではまるで、ヴァイスが子を得るためだけに、シオンと結婚したとも取れる言いようだ。
(……まあ、実はその通りなんだけど)
実際には子供が欲しくて、ですらない。
完全な仮初の花嫁になるべくして召喚された。
だから腹を立てる理由などどこにもないはずなのに、シオンは強か胸を抉られた。
まるで「お前は男の愛を得られる女じゃない」とでも言われた気分だった。
あの日、アパートで聡たちに罵られた傷は未だに癒えない。
「それって……私は子供を産むための道具として、妻に迎えられたと仰りたいのですか?」
「いやですわ、ごめんなさい。そこまではっきり申し上げたつもりはないんですけれど、そう聞こえました?」
「へえ」
動揺の大きさゆえに、へんてこりんな相槌が口からこぼれる。
シャルロットはシオンの露わにした不快感に対して、逆に瞳を輝かせた。
「どうか気を悪くなさらないでくださいませ。意に染まぬ相手との結婚なんて、私たち身分のある者にはよくある話ですもの。でも、夫人は恵まれてらっしゃるわ。魔力をお持ちなだけで、あのヴァイス様と結婚なさったのですから」
コロコロと、シャルロットは鈴を転がすような愛らしい声で笑う。
姿だけなら昔遊んだリカちゃん人形のように可憐なのに。
女性特有の、婉曲的な表現に鈍いシオンでも、もうシャルロットの本意が理解できた。
「なるほど。シャルロットさん貴女、ヴァイスにとってこの結婚は決して本意ではない、とおっしゃりたいのね」
シオンは声を上げた。
それで合点が行く。
シャルロットは、シオンが気に入らない。
おおかた今日は、シオンの値踏みに来たのだろう。
ヴァイスの不在時を狙って。
その結果、シャルロットのお眼鏡には適わなかった。
仮令シオンがどれほど非の打ち所がなかったとしても、認めたかどうかは不明だが。
(どうしよう。すっごい嫌な気分……!)
シオンは、はっきりと敵意を込めてシャルロットを見返した。けれど、どうしたらいいかわからない。
誰かを呼んで、この少女を追い出しても良いだろうか。
でも、表向きは結婚の祝いに訪ねてきた客人だ。
下手な振る舞いをして、有る事無い事、後で吹聴されたらたまらない。
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