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新妻になりました

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 食卓には結構な量の料理が並んでいたのに、あっという間に平らげ、席を立った。

 不満があるようにも見えなかった。

 不味いでも美味いでもなく、ヴァイスにとっての食事はただ栄養を補給するだけの行為なのかもしれない。

 たった1日しか接点がないが、無口なヴァイスの姿を思い出す。

 ……ただし、2人でいる間はやたらと絡んできたが。
 
 第三者がいる時、ヴァイスはいつも静かだった。

「大公様はお忙しいので無理もありません。私たちも十分良くして頂いているのは重々承知しております。ですが、だからこそ奥様たちがいらしてお邸が明るくなり、日々に励みが生まれました。大変嬉しく存じております。改めてお礼を申し上げます」

「そんな……私の方こそ、右も左もわからないのに良くしてもらって、感謝してます。至らぬ妻で、不甲斐なくはあるけど……」

 シオンはサラに倣って深々と頭を下げた。

「奥様、いけません。お郷ではどうかわかりませんが、奥様は大公閣下の妻です。使用人に頭を下げてはなりません」

「そういうものですか? でも、私は教わる側だし」

「それでも、です。今は私どもとしかお会いになりませんが、今後は他の貴族たちとも交流を持つ機会があるでしょう。その時に、閣下の奥方たる者が使用人に頭を下げるようでは侮られてしまいます」

「そう……なのね。わかった、気をつけるわ。でも、じゃあ、やっぱりお邸の中でだけは、このままでいさせて? 私、このお邸の皆んなは家族だと思っているから、よそよそしいのは嫌なの」

 せっかくシオンのためを想って忠告してくれているのに反論するなんて、それこそ生意気かとも考えた。

 けれど、本心だから素直に伝えた。

 考えるのが恐ろしくて、敢えて目を背けている部分でもあったが、シオンにはもう戻る場所が……方法がない。

 日本で一人暮らしをしていた時も似たようなものだったが、それでも友人、知人くらいはいた。

 身寄りがないのは寂しいものだ。

「ね、迷惑でないならそうさせて。外ではしないから」

「奥様……」

 サラは感動したように、言葉を詰まらせた。

「勿体ないお言葉です。邸宅での過ごされ方は、如何様にも……」

「良かった。ありがとう」

 シオンはサラと笑い合って食事を楽しんだ。

 食後のお茶を飲んでいると、不意にドアの正面に青白い光の球が浮かび上がった。

「な、何!?」

 球はその大きさをみるみる増し、光は弾けるように広がった。

 その光の中から大きな影のようなものが現れて、ゴロン、と床に転がり落ちる。

 思わず腰を浮かし、眩しさから目を庇うように手をかざしたが、物体が転がり落ちると同時に光は消失した。

 すぐにその、落ちてきた物体に注目する。

 悲鳴を上げたいところだが、リラが眠っている。

 背に揺かごを庇うようにして立ち上がりーー

 その物体が人間だと気づいた。

「ヴァ、ヴァイス? どうしたの、急にーー!?」

「ワームの討伐中にキリムが現れて……失敗しくじった……」

「失敗したって、討伐できなかったって意味? 今、どこから来たの? ドア、開かなかったよね??」
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