12 / 131
ようこそエルデガリアへ
5
しおりを挟む
「まさか。シオンは死なない。俺の見立てでは、シオンは、俺に匹敵する力を持っている」
ヴァイスが慌てて否定した。
だが争点が死か、そうでないかだと、やっぱり白音の人権を無視されているようで、複雑な心境になった。
「そうは言っても、私は魔法なんて使えないし」
「魔力はある。シオンを呼ぶ時も、今も力は感じた。大丈夫だ。だから、結婚しよう」
呼ぶ時、とはタイミング的に、白音が聡たちを呪った時だったりするのだろうか。
ヴァイスは大分前のめりに、白音に迫る。
なるほど。丸ごと信用してはいないが、理屈は理解した。
理解をしても、結婚する気には当然ならない。
こんなに見目麗しい男性から迫られても、どうにも釈然としない。
彼等の言い分を、自分なりにまとめてみる。
「つまり、止むに止まれぬ事情があって、仕方なく私を呼び寄せた、ってことですよね? 呼んでみたらちょうど上手い具合に条件が合致したから結婚しようと。ご都合ですよね??」
順序立てて整理してみると、釈然としない部分が浮き彫りになった。
最初は驚き、戸惑ったが、男性らの身勝手な主張に怒りが込み上げてきた。
ちょうど、自宅でも身勝手な男どもの所業に腹を立てていた直後だ。
我を忘れて呪ってやりたくなるくらいには。
「結果的にはそうだ。だが、俺にとってシオンはーー」
「まあ、その通りではあるけど、もうちょっと考えてみて。さっきは正直に、ヴァイスにとって不利な部分ばかり話したけれど、シオン姫にとっても有益な条件いくつもある」
ネンゲルは白音の怒気を察したのか、ヴァイスの発言を遮って話を続けた。
「エルデガリアには素晴らしい資源がある。ここには川や湖が沢山あるから漁業と塩の生産が盛んなんだ。それに小麦や野菜を始めとした農業、牛や豚の畜産も。あと鉱物資源、女の子が大好きな宝石も採れるよ。山に囲まれているから林業も盛んだ。それから……」
ネンゲルは指を折りつつ、エルデガリアの資源について説明を始めた。
淡水なら塩は採れないから、この地にあるのは塩水湖なのか?
と、茶々を入れたくなるが、話は続くようなので黙って頷く。
「で、その豊かなエルデガリアの守護の要がこのヴァイスだ。国で国教会に次ぐ権力を持っている上にこの美貌。子を成さずとも良いのならと、縁談を望む不届な女性は一定数存在する。そんなレディたちは、私が一切合切、蹴散らしているけれど」
ネンゲル和やかに微笑みながら、「蹴散らす」の部分だけ、やけに力強く発音した。
「私たちは兄弟だからね。私はヴァイスの幸せを心から望んでいるのさ」
「ご兄弟だったんですか」
「まあ、腹違いだし、あまり似ていないけどね」
言われてみれば、顔の造作自体は似ている。しかし、雰囲気はまるで違う。
どちらも美しい顔立ちで人目を惹くが、まるで、太陽と月のように相反していた。
「ね、ヴァイス以上の男はこの国に存在しないよ? だからシオン姫に是非にお願いする。国賓待遇で迎え入れるよ」
言葉遣いは柔和だが、ネンゲルはキッパリと言い切った。
ヴァイスが慌てて否定した。
だが争点が死か、そうでないかだと、やっぱり白音の人権を無視されているようで、複雑な心境になった。
「そうは言っても、私は魔法なんて使えないし」
「魔力はある。シオンを呼ぶ時も、今も力は感じた。大丈夫だ。だから、結婚しよう」
呼ぶ時、とはタイミング的に、白音が聡たちを呪った時だったりするのだろうか。
ヴァイスは大分前のめりに、白音に迫る。
なるほど。丸ごと信用してはいないが、理屈は理解した。
理解をしても、結婚する気には当然ならない。
こんなに見目麗しい男性から迫られても、どうにも釈然としない。
彼等の言い分を、自分なりにまとめてみる。
「つまり、止むに止まれぬ事情があって、仕方なく私を呼び寄せた、ってことですよね? 呼んでみたらちょうど上手い具合に条件が合致したから結婚しようと。ご都合ですよね??」
順序立てて整理してみると、釈然としない部分が浮き彫りになった。
最初は驚き、戸惑ったが、男性らの身勝手な主張に怒りが込み上げてきた。
ちょうど、自宅でも身勝手な男どもの所業に腹を立てていた直後だ。
我を忘れて呪ってやりたくなるくらいには。
「結果的にはそうだ。だが、俺にとってシオンはーー」
「まあ、その通りではあるけど、もうちょっと考えてみて。さっきは正直に、ヴァイスにとって不利な部分ばかり話したけれど、シオン姫にとっても有益な条件いくつもある」
ネンゲルは白音の怒気を察したのか、ヴァイスの発言を遮って話を続けた。
「エルデガリアには素晴らしい資源がある。ここには川や湖が沢山あるから漁業と塩の生産が盛んなんだ。それに小麦や野菜を始めとした農業、牛や豚の畜産も。あと鉱物資源、女の子が大好きな宝石も採れるよ。山に囲まれているから林業も盛んだ。それから……」
ネンゲルは指を折りつつ、エルデガリアの資源について説明を始めた。
淡水なら塩は採れないから、この地にあるのは塩水湖なのか?
と、茶々を入れたくなるが、話は続くようなので黙って頷く。
「で、その豊かなエルデガリアの守護の要がこのヴァイスだ。国で国教会に次ぐ権力を持っている上にこの美貌。子を成さずとも良いのならと、縁談を望む不届な女性は一定数存在する。そんなレディたちは、私が一切合切、蹴散らしているけれど」
ネンゲル和やかに微笑みながら、「蹴散らす」の部分だけ、やけに力強く発音した。
「私たちは兄弟だからね。私はヴァイスの幸せを心から望んでいるのさ」
「ご兄弟だったんですか」
「まあ、腹違いだし、あまり似ていないけどね」
言われてみれば、顔の造作自体は似ている。しかし、雰囲気はまるで違う。
どちらも美しい顔立ちで人目を惹くが、まるで、太陽と月のように相反していた。
「ね、ヴァイス以上の男はこの国に存在しないよ? だからシオン姫に是非にお願いする。国賓待遇で迎え入れるよ」
言葉遣いは柔和だが、ネンゲルはキッパリと言い切った。
111
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる