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史上最悪の修羅場
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白音の不利を悟って、聡は開き直る。
転がった鞄をオマケとばかりに蹴り飛ばす。
「そういうことだから、白音とは別れる。これで、終わりだ」
まるで居直り強盗だ。
このままゴリ押しするつもりらしい。
萌香ニヤニヤと笑みを浮かべている。
白音はキッと萌香を睨みつけた。
「怖~い。こんな野蛮な女とこれ以上一緒にいたら、何されるかわかったもんじゃないわ。聡、行こ」
しかし萌香は白音の睨みなど、そよ風ほどにも感じないようだ。
聡の手を引くと、出て行こうとする。
「待って!」
白音は咄嗟に叫んでいた。
「ああ、これ以上なんだよ?」と聡は不機嫌そうに振り返る。
最早、以前の優しさの面影もない。殴りかかったせいで、余計に幻滅されたのかもしれない。
でももう、方法は何でも良かった。
どうにかして一矢報いたい。このまま行かせてなるものか。
「稲田さんに、私を悪く言う資格があるの!? 最低すぎる。せめて、謝ってよ! でなきゃ……仕事先でバラしてやる。稲田さんに、二股されたって」
「はぁ~? 好きにすればぁ? でもさ、わかってる? 聡を寝取ろうとしたビッチはアンタなのよ。被害者は私。私と聡は同僚で、付き合ってるのも会社公認だし、アンタがどんな主張したって痛い女扱いされるだけよ。そりゃ聡もちょっとは居心地悪くなるだろうけど、圧倒的に不利な立場はア・ン・タ」
決死の覚悟で放った切り札は、あっさり無効にされてしまった。
聡の腕に手を絡ませながら、萌香は必死の白音をせせら笑う。
「萌香の言うとおりだよ、白音。慣れない虚勢はやめとけよ」
「そうそう、モテない女が必死になったらサムイだけ。引き際が大切よ」
わなわなと、震える唇を噛み締めた。
また、涙がこぼれそうだが、誤魔化すように瞬きを繰り返す。
「今度こそ、じゃあね。もう二度と会わないけど」
くすくすと、白音を見下すようにわざとらしい笑い声を上げながら、萌香が背を向ける。
「待って!」
もう一度叫んだが、今度は二人とも反応すら示さない。
「鍵……、返してよ」
悔しくて堪らないのに、他の言葉が思いつかなかった。
ポツリと呟くと、ようやく玄関で靴を履きながら聡が足を止めた。
はぁ、と溜息をつき、ポケットに手を突っ込む。
おもむろに放られた鍵が、チャリンとフローリングに転がった。
思わず転がった鍵に目を向けると、バタンと扉が閉まる音がした。
「くうっ……」
2人が出て行ったとわかっても、白音はしばらくその場から動けなかった。
怒りなんて言葉では表現しきれない、ドス黒い感情がずるずると身の内から這い上がってくる。
今まで白音が、聡に捧げた時間や想いは何だったのか。
それを踏み躙られた挙句、ぞんざいに扱われたのだと思うと屈辱で震えが止まらない。
「ーーっぅぅ、ぅぁあああああっ!!」
それは、愛しさや未練が尾を引きずるなんて、生優しい感情ではなかった。
全身の力を振り絞るようにして咆哮を上げると、ベッドに突進する。
転がった鞄をオマケとばかりに蹴り飛ばす。
「そういうことだから、白音とは別れる。これで、終わりだ」
まるで居直り強盗だ。
このままゴリ押しするつもりらしい。
萌香ニヤニヤと笑みを浮かべている。
白音はキッと萌香を睨みつけた。
「怖~い。こんな野蛮な女とこれ以上一緒にいたら、何されるかわかったもんじゃないわ。聡、行こ」
しかし萌香は白音の睨みなど、そよ風ほどにも感じないようだ。
聡の手を引くと、出て行こうとする。
「待って!」
白音は咄嗟に叫んでいた。
「ああ、これ以上なんだよ?」と聡は不機嫌そうに振り返る。
最早、以前の優しさの面影もない。殴りかかったせいで、余計に幻滅されたのかもしれない。
でももう、方法は何でも良かった。
どうにかして一矢報いたい。このまま行かせてなるものか。
「稲田さんに、私を悪く言う資格があるの!? 最低すぎる。せめて、謝ってよ! でなきゃ……仕事先でバラしてやる。稲田さんに、二股されたって」
「はぁ~? 好きにすればぁ? でもさ、わかってる? 聡を寝取ろうとしたビッチはアンタなのよ。被害者は私。私と聡は同僚で、付き合ってるのも会社公認だし、アンタがどんな主張したって痛い女扱いされるだけよ。そりゃ聡もちょっとは居心地悪くなるだろうけど、圧倒的に不利な立場はア・ン・タ」
決死の覚悟で放った切り札は、あっさり無効にされてしまった。
聡の腕に手を絡ませながら、萌香は必死の白音をせせら笑う。
「萌香の言うとおりだよ、白音。慣れない虚勢はやめとけよ」
「そうそう、モテない女が必死になったらサムイだけ。引き際が大切よ」
わなわなと、震える唇を噛み締めた。
また、涙がこぼれそうだが、誤魔化すように瞬きを繰り返す。
「今度こそ、じゃあね。もう二度と会わないけど」
くすくすと、白音を見下すようにわざとらしい笑い声を上げながら、萌香が背を向ける。
「待って!」
もう一度叫んだが、今度は二人とも反応すら示さない。
「鍵……、返してよ」
悔しくて堪らないのに、他の言葉が思いつかなかった。
ポツリと呟くと、ようやく玄関で靴を履きながら聡が足を止めた。
はぁ、と溜息をつき、ポケットに手を突っ込む。
おもむろに放られた鍵が、チャリンとフローリングに転がった。
思わず転がった鍵に目を向けると、バタンと扉が閉まる音がした。
「くうっ……」
2人が出て行ったとわかっても、白音はしばらくその場から動けなかった。
怒りなんて言葉では表現しきれない、ドス黒い感情がずるずると身の内から這い上がってくる。
今まで白音が、聡に捧げた時間や想いは何だったのか。
それを踏み躙られた挙句、ぞんざいに扱われたのだと思うと屈辱で震えが止まらない。
「ーーっぅぅ、ぅぁあああああっ!!」
それは、愛しさや未練が尾を引きずるなんて、生優しい感情ではなかった。
全身の力を振り絞るようにして咆哮を上げると、ベッドに突進する。
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