113 / 115
新しい世界
12
しおりを挟む
エドワードは〝大丈夫”と話していたが、お茶会のみならず、国を跨いで騒動に巻き込んでしまった。
その上、今度は本当にエドワードと結婚の許しを得る相手となって、どう接していいのか分からない。
ソーニャは覆った口元を、そっとエミリアの耳へ寄せる。
「貴女を再び危険な場所へ追いやったのは私だわ。ごめんなさい、エミリア。私を許して……」
謝罪を耳に、エミリアはハッとする。
声を震わせ、ソーニャは落涙していた。
「そんな、王后陛下! 勿体ないお言葉でございます! どうか、お顔を上げてください」
エドワードからエミリアを引き離そうと、他愛のない画策をしたヴァルデリア王妃。
それが急にエミリアに謝罪をするなんて、不可解な展開だったが、どうやらソーニャの言葉に偽りはないようだ。
あんな風に子供のような悪戯をなさるくらい、きっと素直な方なのだろう。
でなければ王妃が息子の婚約者候補に、謝罪を述べるなど有り得ない。
「さぞ辛かったでしょう。でも、もう大丈夫よ。これからは私たちが貴女を守るわ」
「ありがとうございます……」
予想を遥かに上回る歓迎の言葉に、エミリアも声を詰まらせた。
するとソーニャは腕を広げて、エミリアを抱きしめてくれる。
(……温かい)
エミリアに触れたソーニャの掌には、温もりがあった。そ
れは彼女が人の親だからだろうか。
ソーニャはエミリアの背中を、とんとんと優しく叩く。
「貴女が我が国に戻ってきてくれて嬉しいわ」
エミリアは優しい抱擁に、心から安堵する。
「母上、少々挨拶が長すぎるのでは? 皆の目がありますのに」
「あら、嫉妬しているの? いいでしょう、貴方は散々しているのだから」
「エミリアはまだ、本調子ではないので、私だって遠慮しているんです。ですから……」
エドワードがソーニャとエミリアの間に割って入ると、どこからともなく失笑を買った。
皆、場を弁えている。だが、気兼ねないやり取りに和やかな雰囲気になる。
「母と子で嫁を奪い合うとは、これは大変結構じゃないか。王家の行く末も、安泰というものだ」
ロズウェルドは、愉快そうに大笑した。
「さて、立ち話もなんだし、エミリアの帰還を祝って夕食会を開くとしよう」
ソーニャがエミリアの抱擁を解くと、またどこからともなく拍手が上がった。
***
その夜、王宮の広間で、晩餐会が開かれた。
宴はエミリアが想像していた以上に華やかだった。
王家の人々だけではなく、国内の名だたる貴族たちも出席してくれた。
心を尽くした、祝いの言の葉の数々が2人を包む。
中でも、ヴォルティア王国での事件を聞いた人々は、エミリアを労わってくれた。
その上、今度は本当にエドワードと結婚の許しを得る相手となって、どう接していいのか分からない。
ソーニャは覆った口元を、そっとエミリアの耳へ寄せる。
「貴女を再び危険な場所へ追いやったのは私だわ。ごめんなさい、エミリア。私を許して……」
謝罪を耳に、エミリアはハッとする。
声を震わせ、ソーニャは落涙していた。
「そんな、王后陛下! 勿体ないお言葉でございます! どうか、お顔を上げてください」
エドワードからエミリアを引き離そうと、他愛のない画策をしたヴァルデリア王妃。
それが急にエミリアに謝罪をするなんて、不可解な展開だったが、どうやらソーニャの言葉に偽りはないようだ。
あんな風に子供のような悪戯をなさるくらい、きっと素直な方なのだろう。
でなければ王妃が息子の婚約者候補に、謝罪を述べるなど有り得ない。
「さぞ辛かったでしょう。でも、もう大丈夫よ。これからは私たちが貴女を守るわ」
「ありがとうございます……」
予想を遥かに上回る歓迎の言葉に、エミリアも声を詰まらせた。
するとソーニャは腕を広げて、エミリアを抱きしめてくれる。
(……温かい)
エミリアに触れたソーニャの掌には、温もりがあった。そ
れは彼女が人の親だからだろうか。
ソーニャはエミリアの背中を、とんとんと優しく叩く。
「貴女が我が国に戻ってきてくれて嬉しいわ」
エミリアは優しい抱擁に、心から安堵する。
「母上、少々挨拶が長すぎるのでは? 皆の目がありますのに」
「あら、嫉妬しているの? いいでしょう、貴方は散々しているのだから」
「エミリアはまだ、本調子ではないので、私だって遠慮しているんです。ですから……」
エドワードがソーニャとエミリアの間に割って入ると、どこからともなく失笑を買った。
皆、場を弁えている。だが、気兼ねないやり取りに和やかな雰囲気になる。
「母と子で嫁を奪い合うとは、これは大変結構じゃないか。王家の行く末も、安泰というものだ」
ロズウェルドは、愉快そうに大笑した。
「さて、立ち話もなんだし、エミリアの帰還を祝って夕食会を開くとしよう」
ソーニャがエミリアの抱擁を解くと、またどこからともなく拍手が上がった。
***
その夜、王宮の広間で、晩餐会が開かれた。
宴はエミリアが想像していた以上に華やかだった。
王家の人々だけではなく、国内の名だたる貴族たちも出席してくれた。
心を尽くした、祝いの言の葉の数々が2人を包む。
中でも、ヴォルティア王国での事件を聞いた人々は、エミリアを労わってくれた。
12
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~
めもぐあい
恋愛
イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。
成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。
だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。
そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。
ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――
有能なメイドは安らかに死にたい
鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。
運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。
ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。
彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。
リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。
熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。
シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。
※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。
※同性愛を含む部分有り
※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる