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新しい世界

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「飲みました……」

 エドワードが続けて水の入ったグラスを唇に触れさせる。

「反対の手がありますから……」

 何もかも、エドワードに世話を焼かれては、申し訳ないし気恥ずかしい。

 エミリアは身を捩って逃れようとしたが、片手でがっちりと抑え込まれた。

「いいから」

 エドワードは有無を言わせず、グラスを呷らせる。

 不承不承に口を開くと、少しずつ水を流し込まれる。

 口の中の苦みが洗い流されるようで心地いい。

 ゆっくりと嚥下した。

「サンフラン嬢は、どうなるのですか?」

 エミリアが問いかけると、エドワードは動きを止めた。そっとグラスを離す。

「……彼女が単独で犯行を企てたとしたが、国益を損なう陰謀に加担したとして、現国王であるフィリップ殿下も連座する形で責を問われることとなった。異例中の異例だが、当面は上皇陛下が重祚ちょうそされ、再度執政を執られることになる」

 エドワードは、唇を引き結んだ。眉根を寄せる。

「フィリップ様が……」

「上皇夫妻は君を失って、息子を切り捨てる決断をしたようだな」

 エドワードは、感情の籠らない声で淡々と語った。

「エミリアが気に病む処分ではない。当然の報いだ」

「はい……」

 エミリアは、頷いた。膝の上で拳を握る。

(自業自得だわ)

 まさかウィルマがあそこまで大胆な行動に出るとは思わなかったが、全てエミリアの望んだ通りの結末を迎えた。

「私はこれでも、足りないとさえ思っている。エミリアをこんな風に傷付けて、あいつ等を殺してやりたいくらい憎んでる。大事に至らなかったからいいようなものの、化膿でもしたら命にかかわる可能性だってあった」

「あの人たちが本当の意味で罰を受けるのは、もう少し先になるでしょう。とはいえ、私は神でも何でもありませんから、罰の大小を決める権利などないんです」

 エドワードは憤慨していた。

 エミリアも、虚仮にされて、我慢の限界だった。

 しかし、望みを果たした今となっては、どうしても虚しさが残る。

 互いに無用な代償を払い過ぎた。

「それより、エドワード様」

 エミリアは顔を上げて、エドワードを見つめた。その表情があまりに険しくて、言葉が途切れる。

「何だ。……いや、エミリアに怒っている訳じゃないんだ。ただ私がもう少し早く駆けつけていればと思うとつい」

「遅いどころか、充分にお早いお着きでした。エドワード様がいらしてくださらなかったら、今頃私はこの世におりませんでしたわ」

 エドワードは息を呑んだ。

「恐ろしいことを言わないでくれ。もしもそんなことがあれば、私は生きていけない」

「そのお陰で、私はいまここにいられるのです。こうしてまた、お会いできて、私は嬉しいです……」

 我ながら、随分危険な橋を渡っていたと自覚している。

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