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意地

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 ウィルマの傲慢さは、望まずとも知れ渡っていた。

 あちらから近づいて来るような相手は、いずれも権力と財産目当てでしかなかった。

「私は最初から嫌われていたの。いざ愛されたいと思ったら、周りには誰もいなかった……そんな時に声を掛けてくれたのが、フィリップ様だったんです」



『やあ、驚いた。貴女のような大輪の花が会場の隅で震えるなんてもったいない。お名前は?』



 王国の皇太子となれば、その名を知らない貴族はいない。

 それでも、ウィルマはフィリップの顔までは知らなかった。

 声を掛けてくれたのは、黄金色の頭髪に、シャープな輪郭、幼さの残る中世的な面立ちの青年だった。

 彼はやんごとなき血筋のせいか、社交界の噂話に等まったく興味がないようだった。

「フィリップ様は、気さくに話し掛けて下さったわ」

(それは多分、単にモノを知らないだけだったのでしょう……)

 エミリアは肯定も否定もせずに、聞き流した。

 フィリップは他人の顔を覚えない。きっと噂話も、耳に入れたところで何処かへ流れてしまったに違いない。

「今思えば、噂を聞いていても忘れただけなのかもしれない。でも、その時の私には、眩しく映ったの。とても優しい方だって」

 ウィルマの瞳は熱を帯びていた。

「嬉しかった……本当に。だから、エミリア様との婚約が決まって、待っていて欲しいと言われた時も、ちっとも嫌じゃなかったんです」

「……私と貴女の主張はどこまで行っても交わらないわね。でも、動機は理解しました」

「正論は結構です。あの方は何でも持っている。それなのに、私の持ち物でなく、私を欲しいと言ってくれた。だから」

わたくしに自らこの城から去って欲しいと、望んでいるのね」

 ウィルマは頷いた。

(この準備の良さなら、無理にでも私を攫う選択もあった。それなのに手の内を明かしたのだから、誠意と受け取るべきかしら……)

 エミリアは、ウィルマの真意を探ろうと見つめた。

「貴女には悪いけれど、馬車へは乗りません」

「あら、どうして? 最後のチャンスかもしれないんですよ?」

 ウィルマは意外そうに目を見開いた。

 馬車に乗るということは、逃亡を図る行為だ。

 ウィルマの提案を受け入れる以前に、エミリアには逃亡を選択する理由がない。

 軟禁生活は不自由で不愉快極まりないが、既に事態は収束に向かっている。

「そうね……例えば、その選択が私に不利に働くから」

 嘘ではない。

 打ち明け話は多少、同情心を刺激したが、それでもエミリアの知ったところではない。

 真実など、明かすものか。

 愛を理由に今頃こんなに勝手な行動を取るなら、初めから正々堂々フィリップと手を取って、アンゲリクスとマルティナを説得するべきだった。

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