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意地

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「……そうですよね」

(一体何を考えているのかしら?)

 ウィルマはただ黙って歩くだけで、何か一言も発さない。

「散歩って、どこまで行くつもりなのです?」

 エミリアは小道の真ん中で足を止めると、ウィルマを振り返り、問いかけた。

(どうも居心地が悪いわ……)

 住み慣れた城の敷地内とは言え、徒歩では森を抜けるのに、相当な時間がかかる。

 森へ深く踏み入れれば、虫の声や鳥の羽ばたきにさえ驚かされた。

「もうすぐです」

 ウィルマは短く答えると、さらに奥へと歩みを進めた。

(何か目印があるのかしら?)

 引き返すべきか悩んでいるうちに、開けた場所に出た。

「……え?」

 エミリアは思わず声を上げる。

 目の前には、一台の馬車が停まっていた。

「どうぞ、お乗りください」

 ウィルマは馬車の扉を開けると、エミリアを促した。

「これは、何ですか」

 促されても、そう容易に応じられない。馬車の車体や車輪は泥で汚れ、何日も前からこの場所にあったことを物語っている。

「父に頼んで手配しました。サンフラン家の馬車です」

「それは、見れば分かります。どうしてこんな提案をするのかと聞いているのです」

 キャビンの扉には盾に二対の斧が描かれた、サンフラン家の紋章が描かれている。

 何かの罠かと、身構えた。部屋からついて来た侍女もいるのに、どんな意図があるのだろう。

「これに乗ってくだされば、お好きな場所へお連れします」

 ちら、と付き添った侍女の様子を窺う。しかし、動揺する素振りはない。

「その侍女も私の手の者ですのでご安心を。どうして、かなんてお見通しでしょう? ご聡明なエミリア様なら」

 ウィルマは馬車の扉を開いて、エミリアに歩み寄った。

(侍女までこの子の息が掛かっていたの。……迂闊だったわ)

 侍女が見ていればこそ、無体な真似はしないと踏んでいた。

「私にとって、貴女は邪魔者に他ならないんです。せっかく出て行ったと思えば戻って来るし、離婚するかと思えば陛下たちが許してくださらないし……」

 ウィルマはぶつぶつと、恨み言を呟いている。

「乗らないのですか? フィリップ様にあんな風に馬鹿にされてまで、黙って妃の座に留まるような方ではないと踏んでいたのですが」

 王妃に向かって、堂々たる口の利き方だ。

 最初からエミリアに喧嘩を売っていたのだから、もう今更どんな発言をしようと構わないのだろう。

「私がどのように貶められたか、すっかりご存じなのね。嘲笑いにいらしたのではなくて?」

「最初は……私が寵愛を独り占めして、懐妊・出産したらエミリア様を追い出して嘲笑いたいと思っておりましたの。けれど、当てが外れました。まさか、こんなに」

 言いたい放題を貫いていたウィルマだったが、不意に言葉を切る。
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