92 / 115
復讐
17
しおりを挟む
(そろそろ、ヴォルティアの国境付近か……)
エドワードは馬に揺られながら、馬車の窓から外を覗く。
馬車の揺れは心地よく、すっかりとは言えないが、疲れも多少解消された。
外は一面の星空だ。
エミリアを攫ったあの晩と同じく、煌々と瞬いている。
(早く会いたい……)
あの笑顔を見たい。触れ合いたい。声が聞きたい。肌を重ねたい……そんな欲求が胸に押し寄せる。
「エドワード様、もうすぐ国境です」
御者の声がエドワードの思考を遮った。
(エミリア……)
彼女のことばかり考えている自分がおかしくて、つい笑みが漏れる。
(私はどうかしているな)
城を出てから数日が経過していた。
「一度この辺りで休憩を取りましょう」
御者の言葉で、馬車は森の近くで止まった。
帰路にこそ馬の力が肝要だ。休息は充分に取らせなくては。
(もうすぐ、もうすぐだ)
エドワードは逸る気持ちを抑え、馬車を降りた。
周囲は暗いが、月明かりのおかげで視界は良好だ。
(この辺りに……確か廃村があったな)
先日、ヴォルティアを訪れた際に、この辺りで夜営をした記憶がある。
廃村であれば、誰にも邪魔されずに休息を取れるはずだ。
「場所を移すぞ」
エドワードは近衛兵たちに声をかけ、手近な空き家に入った。
***
明くる朝、エミリアは日の出と共に目覚めた。
昨晩の寝付きが悪かったせいだろうか。カーテンの隙間から差す日の光が、エミリアを現実へと引き戻した。
エミリアは部屋のドアをそっと開け、左右を伺う。
見張りの侍女が一人、椅子に座っていた。
(まだ、疑いは晴れていないのね。でも……眠っているようね)
やはり昨晩も、リチャードと重要な会話を交わさずに、正解だった。
下手な疑心を生まないように、見張りの確認などは今までしていない。
これまでも毎晩、このように誰かが交替で見張りを務めていたようだ。
なるべく音を立てないようにドアを閉めると、窓へと歩み寄った。
カーテンを開いて鍵に触れたところで、慌てたように扉がノックされた。
「お目覚めですか、エミリア様。失礼します」
声の主は、椅子で眠っていた侍女だった。
エミリアが返事をする前に、扉が開かれた。
「ああ……おはよう」
物音に慌てて飛び起きたらしい。
「何か御用があれば、何なりとお申し付けください」
「用というほどではないのだけど……せっかくの良いお天気だから、外気を入れたくて」
「左様でございますか。私が致します」
侍女はエミリアの願いを聞くと、少し逡巡してから窓に近づいた。
(朝になったら、見張りと入れ替わるようにしているのよね)
しばらくすればリチャードも目覚めるはずだ。
その後で外へ出てみようか……。
エドワードは馬に揺られながら、馬車の窓から外を覗く。
馬車の揺れは心地よく、すっかりとは言えないが、疲れも多少解消された。
外は一面の星空だ。
エミリアを攫ったあの晩と同じく、煌々と瞬いている。
(早く会いたい……)
あの笑顔を見たい。触れ合いたい。声が聞きたい。肌を重ねたい……そんな欲求が胸に押し寄せる。
「エドワード様、もうすぐ国境です」
御者の声がエドワードの思考を遮った。
(エミリア……)
彼女のことばかり考えている自分がおかしくて、つい笑みが漏れる。
(私はどうかしているな)
城を出てから数日が経過していた。
「一度この辺りで休憩を取りましょう」
御者の言葉で、馬車は森の近くで止まった。
帰路にこそ馬の力が肝要だ。休息は充分に取らせなくては。
(もうすぐ、もうすぐだ)
エドワードは逸る気持ちを抑え、馬車を降りた。
周囲は暗いが、月明かりのおかげで視界は良好だ。
(この辺りに……確か廃村があったな)
先日、ヴォルティアを訪れた際に、この辺りで夜営をした記憶がある。
廃村であれば、誰にも邪魔されずに休息を取れるはずだ。
「場所を移すぞ」
エドワードは近衛兵たちに声をかけ、手近な空き家に入った。
***
明くる朝、エミリアは日の出と共に目覚めた。
昨晩の寝付きが悪かったせいだろうか。カーテンの隙間から差す日の光が、エミリアを現実へと引き戻した。
エミリアは部屋のドアをそっと開け、左右を伺う。
見張りの侍女が一人、椅子に座っていた。
(まだ、疑いは晴れていないのね。でも……眠っているようね)
やはり昨晩も、リチャードと重要な会話を交わさずに、正解だった。
下手な疑心を生まないように、見張りの確認などは今までしていない。
これまでも毎晩、このように誰かが交替で見張りを務めていたようだ。
なるべく音を立てないようにドアを閉めると、窓へと歩み寄った。
カーテンを開いて鍵に触れたところで、慌てたように扉がノックされた。
「お目覚めですか、エミリア様。失礼します」
声の主は、椅子で眠っていた侍女だった。
エミリアが返事をする前に、扉が開かれた。
「ああ……おはよう」
物音に慌てて飛び起きたらしい。
「何か御用があれば、何なりとお申し付けください」
「用というほどではないのだけど……せっかくの良いお天気だから、外気を入れたくて」
「左様でございますか。私が致します」
侍女はエミリアの願いを聞くと、少し逡巡してから窓に近づいた。
(朝になったら、見張りと入れ替わるようにしているのよね)
しばらくすればリチャードも目覚めるはずだ。
その後で外へ出てみようか……。
33
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
遥かなる物語
うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。
この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。
彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。
だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか?
ーーーーーーーー
序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。
※作者独自の世界観です。
※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる