捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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復讐

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(そろそろ、ヴォルティアの国境付近か……)

 エドワードは馬に揺られながら、馬車の窓から外を覗く。

 馬車の揺れは心地よく、すっかりとは言えないが、疲れも多少解消された。

 外は一面の星空だ。

 エミリアを攫ったあの晩と同じく、煌々と瞬いている。

(早く会いたい……)

 あの笑顔を見たい。触れ合いたい。声が聞きたい。肌を重ねたい……そんな欲求が胸に押し寄せる。

「エドワード様、もうすぐ国境です」

 御者の声がエドワードの思考を遮った。

(エミリア……)

 彼女のことばかり考えている自分がおかしくて、つい笑みが漏れる。

(私はどうかしているな)

 城を出てから数日が経過していた。

「一度この辺りで休憩を取りましょう」

 御者の言葉で、馬車は森の近くで止まった。

 帰路にこそ馬の力が肝要だ。休息は充分に取らせなくては。

(もうすぐ、もうすぐだ)

 エドワードは逸る気持ちを抑え、馬車を降りた。

 周囲は暗いが、月明かりのおかげで視界は良好だ。

(この辺りに……確か廃村があったな)

 先日、ヴォルティアを訪れた際に、この辺りで夜営をした記憶がある。

 廃村であれば、誰にも邪魔されずに休息を取れるはずだ。

「場所を移すぞ」

 エドワードは近衛兵たちに声をかけ、手近な空き家に入った。





 ***






 明くる朝、エミリアは日の出と共に目覚めた。

 昨晩の寝付きが悪かったせいだろうか。カーテンの隙間から差す日の光が、エミリアを現実へと引き戻した。

 エミリアは部屋のドアをそっと開け、左右を伺う。

 見張りの侍女が一人、椅子に座っていた。

(まだ、疑いは晴れていないのね。でも……眠っているようね)

 やはり昨晩も、リチャードと重要な会話を交わさずに、正解だった。

 下手な疑心を生まないように、見張りの確認などは今までしていない。

 これまでも毎晩、このように誰かが交替で見張りを務めていたようだ。

 なるべく音を立てないようにドアを閉めると、窓へと歩み寄った。

 カーテンを開いて鍵に触れたところで、慌てたように扉がノックされた。

「お目覚めですか、エミリア様。失礼します」

 声の主は、椅子で眠っていた侍女だった。

 エミリアが返事をする前に、扉が開かれた。

「ああ……おはよう」

 物音に慌てて飛び起きたらしい。

「何か御用があれば、何なりとお申し付けください」

「用というほどではないのだけど……せっかくの良いお天気だから、外気を入れたくて」

「左様でございますか。私が致します」

 侍女はエミリアの願いを聞くと、少し逡巡してから窓に近づいた。

(朝になったら、見張りと入れ替わるようにしているのよね)

 しばらくすればリチャードも目覚めるはずだ。

 その後で外へ出てみようか……。
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