91 / 115
復讐
16
しおりを挟む
「ヴァルデリアの総意として、堂々と乗り込むがいい」
国王のサインだけが記された、白紙の書簡を渡される。
「陛下……お心遣い、ありがとうございます」
エドワードはロズウェルドへ、深々と頭を下げた。
「近衛の者たちの中から、精鋭を10名集めろ。旅支度を整えさせ、夕刻には城を発つ」
「しかし、エドワードは先刻戻られたばかりです。少しはお休みになられたほうが」
「いや、こちらの動きを悟られれば、エミリアの奪取は困難になる。ただし、帰路のためにも馬車は使う。その中で休むから、大丈夫だ」
「あちらで謁見を申し込む前には、きちんと身なりを整えるのですよ? 駆けずり回って髪が乱れているから」
「はい、母上。それくらい整える時間は、あります」
エドワードは苦笑して、髪を後ろに撫でつけた。
そう言えば、髭の手入れもしていない。
「それと、伝え忘れておりましたが、エミリアから両陛下に、贈り物があります。詳細はリチャードが持ち帰りますが、先日申し上げた鉄道に関しての識者、職人たちの名簿があります。特にヴォルティア内の職人とは交渉済みとの報告がありました」
「何とも、抜け目ない。功績があれば国民からの支持を得やすいと」
「……そこまでの意図があるかは分かりませんが、ヴァルデリアに利益をと考えた上での贈り物でしょう」
礼を言って、執務室を後にする。
(父上も母上も……わかって下さった)
二人に理解を示して貰えて、何より心強かった。
不謹慎にも、少し浮かれてしまう。
(この機会を逃したら、エミリアを取り戻せないかもしれない……)
エドワードは速足で自室へと戻りながら、胸の奥に小さな炎が灯ったのを感じていた。
ヴォルティア王妃を、奪いに行ける。
それを思うと、心臓が早鐘を打つように高鳴った。
(エミリア……)
エドワードは自室に戻ると、寝室のベッド腰を下ろした。
張り詰めていた気持ちが緩み、疲れがドッと押し寄せる。
(貴女に会いたい)
ヴォルティア国王と対峙できる機会はそうはない。
(駄目だ……気を抜くと、瞼が下りる)
エドワードは立ち上がり、壁面の鏡へ手を突いた。
(もう少しだ。これからなのに……)
もう少しでエミリアを取り戻せると思えばこそ、踏ん張れる。
(確かに、この姿では……合わせる顔がないか)
ソーニャの指摘通り、鏡に映った容姿はお世辞にも立派なものではなかった。
どの程度記憶が正確か分からないが、ヴォルティア王はエミリアと同じく金髪の碧眼だった。
殴った時の手ごたえは余りにも貧弱だったが、温室育ちの王族らしく、繊細で華やかな容姿の持ち主だった。
「失礼します」
些事にかまけていると、理髪師と侍女が同時に入室した。
二人は事情を知ってか、てきぱきと身形を整えてくれる。
「エドワード様がここまでご執心になるお嬢様とは、どのような方でしょうか。ご尊顔を拝見できる日を、楽しみにしております」
服装を改めると、気持ちもすっきりと改まる。
「女神のような女性だよ。必ず、連れ帰る」
エドワードは微笑むと、皆が整列しているであろう広場へ向かった。
国王のサインだけが記された、白紙の書簡を渡される。
「陛下……お心遣い、ありがとうございます」
エドワードはロズウェルドへ、深々と頭を下げた。
「近衛の者たちの中から、精鋭を10名集めろ。旅支度を整えさせ、夕刻には城を発つ」
「しかし、エドワードは先刻戻られたばかりです。少しはお休みになられたほうが」
「いや、こちらの動きを悟られれば、エミリアの奪取は困難になる。ただし、帰路のためにも馬車は使う。その中で休むから、大丈夫だ」
「あちらで謁見を申し込む前には、きちんと身なりを整えるのですよ? 駆けずり回って髪が乱れているから」
「はい、母上。それくらい整える時間は、あります」
エドワードは苦笑して、髪を後ろに撫でつけた。
そう言えば、髭の手入れもしていない。
「それと、伝え忘れておりましたが、エミリアから両陛下に、贈り物があります。詳細はリチャードが持ち帰りますが、先日申し上げた鉄道に関しての識者、職人たちの名簿があります。特にヴォルティア内の職人とは交渉済みとの報告がありました」
「何とも、抜け目ない。功績があれば国民からの支持を得やすいと」
「……そこまでの意図があるかは分かりませんが、ヴァルデリアに利益をと考えた上での贈り物でしょう」
礼を言って、執務室を後にする。
(父上も母上も……わかって下さった)
二人に理解を示して貰えて、何より心強かった。
不謹慎にも、少し浮かれてしまう。
(この機会を逃したら、エミリアを取り戻せないかもしれない……)
エドワードは速足で自室へと戻りながら、胸の奥に小さな炎が灯ったのを感じていた。
ヴォルティア王妃を、奪いに行ける。
それを思うと、心臓が早鐘を打つように高鳴った。
(エミリア……)
エドワードは自室に戻ると、寝室のベッド腰を下ろした。
張り詰めていた気持ちが緩み、疲れがドッと押し寄せる。
(貴女に会いたい)
ヴォルティア国王と対峙できる機会はそうはない。
(駄目だ……気を抜くと、瞼が下りる)
エドワードは立ち上がり、壁面の鏡へ手を突いた。
(もう少しだ。これからなのに……)
もう少しでエミリアを取り戻せると思えばこそ、踏ん張れる。
(確かに、この姿では……合わせる顔がないか)
ソーニャの指摘通り、鏡に映った容姿はお世辞にも立派なものではなかった。
どの程度記憶が正確か分からないが、ヴォルティア王はエミリアと同じく金髪の碧眼だった。
殴った時の手ごたえは余りにも貧弱だったが、温室育ちの王族らしく、繊細で華やかな容姿の持ち主だった。
「失礼します」
些事にかまけていると、理髪師と侍女が同時に入室した。
二人は事情を知ってか、てきぱきと身形を整えてくれる。
「エドワード様がここまでご執心になるお嬢様とは、どのような方でしょうか。ご尊顔を拝見できる日を、楽しみにしております」
服装を改めると、気持ちもすっきりと改まる。
「女神のような女性だよ。必ず、連れ帰る」
エドワードは微笑むと、皆が整列しているであろう広場へ向かった。
12
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~
めもぐあい
恋愛
イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。
成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。
だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。
そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。
ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――
有能なメイドは安らかに死にたい
鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。
運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。
ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。
彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。
リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。
熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。
シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。
※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。
※同性愛を含む部分有り
※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる