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復讐

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「ヴァルデリアの総意として、堂々と乗り込むがいい」

 国王のサインだけが記された、白紙の書簡を渡される。

「陛下……お心遣い、ありがとうございます」

 エドワードはロズウェルドへ、深々と頭を下げた。

「近衛の者たちの中から、精鋭を10名集めろ。旅支度を整えさせ、夕刻には城を発つ」

「しかし、エドワードは先刻戻られたばかりです。少しはお休みになられたほうが」

「いや、こちらの動きを悟られれば、エミリアの奪取は困難になる。ただし、帰路のためにも馬車は使う。その中で休むから、大丈夫だ」

「あちらで謁見を申し込む前には、きちんと身なりを整えるのですよ? 駆けずり回って髪が乱れているから」

「はい、母上。それくらい整える時間は、あります」

 エドワードは苦笑して、髪を後ろに撫でつけた。

 そう言えば、髭の手入れもしていない。

「それと、伝え忘れておりましたが、エミリアから両陛下に、贈り物があります。詳細はリチャードが持ち帰りますが、先日申し上げた鉄道に関しての識者、職人たちの名簿があります。特にヴォルティア内の職人とは交渉済みとの報告がありました」

「何とも、抜け目ない。功績があれば国民からの支持を得やすいと」

「……そこまでの意図があるかは分かりませんが、ヴァルデリアに利益をと考えた上での贈り物でしょう」

 礼を言って、執務室を後にする。

(父上も母上も……わかって下さった)

 二人に理解を示して貰えて、何より心強かった。

 不謹慎にも、少し浮かれてしまう。

(この機会を逃したら、エミリアを取り戻せないかもしれない……)

 エドワードは速足で自室へと戻りながら、胸の奥に小さな炎が灯ったのを感じていた。

 ヴォルティア王妃を、奪いに行ける。

 それを思うと、心臓が早鐘を打つように高鳴った。

(エミリア……)

 エドワードは自室に戻ると、寝室のベッド腰を下ろした。

 張り詰めていた気持ちが緩み、疲れがドッと押し寄せる。

(貴女に会いたい)

 ヴォルティア国王と対峙できる機会はそうはない。

(駄目だ……気を抜くと、瞼が下りる)

 エドワードは立ち上がり、壁面の鏡へ手を突いた。

(もう少しだ。これからなのに……)

 もう少しでエミリアを取り戻せると思えばこそ、踏ん張れる。

(確かに、この姿では……合わせる顔がないか)

 ソーニャの指摘通り、鏡に映った容姿はお世辞にも立派なものではなかった。

 どの程度記憶が正確か分からないが、ヴォルティア王はエミリアと同じく金髪の碧眼だった。

 殴った時の手ごたえは余りにも貧弱だったが、温室育ちの王族らしく、繊細で華やかな容姿の持ち主だった。

「失礼します」

 些事にかまけていると、理髪師と侍女が同時に入室した。

 二人は事情を知ってか、てきぱきと身形を整えてくれる。

「エドワード様がここまでご執心になるお嬢様とは、どのような方でしょうか。ご尊顔を拝見できる日を、楽しみにしております」

 服装を改めると、気持ちもすっきりと改まる。

「女神のような女性だよ。必ず、連れ帰る」

 エドワードは微笑むと、皆が整列しているであろう広場へ向かった。
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