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復讐

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 ライネル湖まで、駆け抜いた。

 御者に別れを告げ、エドワードはリチャードの潜伏先を目指した。陽はすっかり落ちている。

 0時まで、残された時は約4時間。

 しかし、0時きっかりに伝えたのでは遅い。リチャードが王宮に忍び込む時間も必要だ。

 エドワードは、町はずれの酒場でリチャードと再会した。

 用件を伝えて、リチャードに後を託す。

 予め王宮内に間者を潜ませておいた点が功を奏した。一計を案じると、うまくいった。

 後は時間との勝負だ。

 現在は、0時30分――エドワードは酒場の片隅で、リチャードの連絡を待った。




 ***




 一方、フィリップと共に帰城したエミリアは――

「エミリア、本当にごめんなさいね。貴女が帰って来てくれて、とても嬉しいの。フィリップにはよく言って聞かせるから、今度何かあったなら、私たちに相談してちょうだい」

 予想通り、上皇アンゲリクス、王太后マルティナを始め、王宮の誰もが、エミリアの帰城を歓迎した。

「エミリア、無事で良かった。これからは気兼ねなく、いつでも私たちを頼ってくれて良いのだよ」

 また、これも予想通り、エミリアの傍には普段の倍の侍女が置かれた。

 どこにも怪我はないのに、ベッドに寝かされた。

「ヴァルデリアでお世話になっていたようだね。あちらの王子とは以前から懇意にしていたの?」

「いいえ、フィリップ様の戴冠式でお会いした程度です」

「ふむ、それはよくなかったね。今日の一件で彼の本性が明らかになった。エミリアの身に何もなくて、本当に良かった」

 フィリップとエドワードの諍いは、既に王太后の耳に入っていたらしい。

 フィリップが口を割れば、それも当然だ。

「それは、誤解ですわ。エドワード殿下は何もしていません」

「いや、私たちもフィリップに確認したんだ。事実に誤りがあってはいけないからね。だが、現にフィリップは怪我を」

「あれは、私がやりましたの」

 エミリアは、フィリップを殴ったと、淡々と告げた。

 王太后とマルティナが、目を瞠る。

「貴女が!?」

「はい」

 エミリアは悪びれず頷いた。2人は顔を見合わせる。

「フィリップ様が、他国の王子エドワード殿下の前で、私を辱める言動をなさったのです。ですから、殴りました」

 にっこりと微笑んで、エミリアは胸の前で拳を握ってみせた。

 エミリアは馬車の中にいた。2人の会話は声が判別できる程度で鮮明には聞こえない。

 けれど、エミリアにだって唇を読むくらいの芸当はできる。

 フィリップが許し難い暴言を吐いて、エドワードが激昂した姿をしっかりこの目に焼き付けていた。

(――まったく、あんなに、救いようのない下衆だとは……)

 失望と怒りが沸き起こる。

 握った拳が小刻みに震える。
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