捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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「……このようなところでお会いできるとは思いませんでしたよ、ヴォルティア国王陛下。貴方から会談の申し出があるかと思っていたのですが……」

 エドワードが皮肉めいた口調で返すと、フィリップは悪びれた様子もなく、再び「申し訳ない」と頭を下げた。

 フィリップは公的な場でなく、秘密裏にエミリアを連れ帰れば最上と考えていたのかもしれない。

 だが、エドワードは最初から真っ向からぶつかるつもりだった。そのための公的な文書だ。

「でも、中にはいるのだろう? 一緒に、ヴォルティアへ連れて来る途中だったんだろう?」

 フィリップは、馬車をちらと見遣った。中を覗き込もうとする。

「エミリア、いるんだろう? 私が悪かった。姿を……見せてくれ」

 エドワードは、フィリップを押し止めた。

「馬車の扉を開けてくれ、エドワード殿下。私は妻に話がある」

 フィリップは、エミリアが中にいると確信しているように言い捨てた。

「……貴方に会わせるわけにはいかない。貴方がどれだけ彼女を傷付けたか、お忘れですか」

 エドワードはきっぱりと断った。

「わかっているさ。だが、反省した。今度こそ大事にする。会って、謝りたいんだ」

「今度などありません。彼女は離婚を望んでいると、記してあったでしょう」

 エドワードは、あくまで冷静だった。公式の場以外では、どんな言動にも確たる証拠を残せない。

 それに可能な限り、エミリアとは会わせたくない。

 情にほだされないとも限らない。半分はエドワードの私情だ。

「……離婚など、エミリアが本心で望んでいるのか?」

 フィリップは、エドワードを睨みつけた。剣呑な眼差しだった。

「彼女とは皇太子時代からの付き合いだ。顔を合わせて話せば、わかってもらえる。私がまだ、エミリアを愛していると。だからそこを通してくれ。彼女は慈悲深くて聡明な女性だから……」

「慈悲深くて聡明? それを分かっていて、貴方はまだ彼女に付け込むつもりなのか? 愛していると言うなら、彼女を解放するべきだ」

 フィリップがエミリアを愛しているとのたまう。

 それだけでエドワードは、はらわたが煮える思いがした。

 声が怒気を孕んだ。しかし、感情が表に出ないよう、抑制する。

「付け込むとは、人聞きの悪い。確かに私は過ちを犯したが、ついこの間まで、私たちは愛し合っていたんだ。彼女の愛情は、まだ残っていると信じている」

 フィリップは、エドワードの苛立ちを気にも留めず、しれっと言い放った。

(まだ愛情が残っている……だと?)

 彼の勝手な言い分に、エドワードの怒りは頂点に達した。

 エミリアが、フィリップを愛しただろうことは理解している。だが、聞きたくない。

 よりによって、この男の口からは。

「だから、会わせてくれ。君も私と似た立場なんだから、わかるだろう? エミリアを連れて帰らないと、困るんだ……」

 フィリップはエドワードを押しのけると同時に、小さく呟いた。
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