捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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 ありとあらゆる手段で、フィリップとエミリアの仲を取り持とうと力を尽くすだろう。

 エドワード一人で交渉に向かいたい気持ちは山々だったが、責任感の強いエミリアだ。

 直接出向くと、聞き入れなかった。

 母、ソーニャに関しては、今は保留だ。

 謁見を願い出ても「今は会いたくない」とそっけない返答だった。

 エミリアにやり込められて、さぞショックを受けているのだろう。

 いずれの令嬢たちよりもエミリアが社交にも機転にも長けているとわかったはずだし、先に離婚を成立させれば、情勢は変わると思われる。

 書簡への返事を待ちながら、エミリアと共に朝食を摂った。

 向こうからの返事は決まっている。

 エドワードは、黙ってそれを待った。

「エミリア」

「はい」

 彼女は緊張の面持ちで、背筋を伸ばした。

 やはりリチャードと二人のほうが良かっただろうか――などと後悔しても遅い。

 そんな思いを押し隠しながら、優しく微笑みかける。

「――返事を待ちましょう」

 エミリアが笑顔を見せると、エドワードの緊張も多少和らいだ気がする。

 一番落ち着かないのはエミリアだろうに。

 本当に肝が据わった女性だ。

 この女性ひとに相応しい男になるには、骨が折れそうだ。

「早馬を用意しているが、三時を過ぎても戻らなければ、出立する。私たちは今日中にはヴォルティアへ入る」

「そうですね」

 エドワードが今後の予定を話すと、エミリアは素直に頷いた。

 しかし、その声が少し掠れている。顔色も悪い。

「エミリア? 体調が優れない?」

 エドワードは席を立つと、エミリアの傍らに膝をついた。額に手をやり熱を測る仕草をする。

「熱は……ないようだが」

「大丈夫、少し緊張しているだけでしょう。ちょっと昨夜は寝付きが悪かったから」

「睡眠不足はよくないよ。出発まで休むといい」

 エドワードはエミリアの頬を撫でた。やはり顔色が悪い気がする。

 エミリアは気丈に振る舞っているが、やはり不安なのだろう。エドワードは溜め息をついた。

「貴女を休ませたいのだが」

 昨夜も考え事をしていたのか――と言いかけて口を噤んだ。

「無理をさせてはいけないな。私も一眠りするとしよう」

 エドワードは、エミリアの手を取ると優しくエスコートした。




 ***




 太陽が西に傾き始める頃、二人は城を発った。

 ヴォルティアからの返事は、期限の三時に間に合わなかった。

 今回の協議の肝はスピード感だ。

 エドワードの認識では、先方がこちらを待たせる権利はないと考えている。

 あくまでフィリップ国王はエミリアに対する加害者だ。

 それでも、公平にと交渉の舞台を持とうと提案した。

 とはいえ、ヴォルティア側が少しでも交渉を引き延ばしたがる展開も予測している。

 意思決定の要であるエミリアがおらず、まともに決断も下せないなんて、情けない話だ。

 エドワードは、心の中で嘲笑った。

 ヴォルティア側がしびれを切らすのが先か、それともエドワードのほうが痺れを切らすか――可能性は五分と五分だった。

 仮にヴォルティアが時間切れで書状を無視した場合、それを理由に直接面会を申し出よう。

 そう思った時だ。

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